古代世界語《コイネーギリシャ語》:
文法解析シリーズその2
【完了時制に関する文法的諸事項】
================
完了系を示す専用の基本語幹は、それぞれの単語の元の基本動詞語幹
(現在形の語幹と同形の語もある)から導出される。(規則動詞に関し
ては、未来や不定過去の語形を成す場合の動詞<語幹>と同じものと
見てよい。)
<完了時制の基本型:規則動詞類>での語形成立の基本型は、動詞語
幹により、
<●ε●~κα>形式という、特有な重綴り形式でもって形成され、
表わされている。ただし、中態、受動態は、<κα>の接尾字をとらな
いで、代わりに別の人称接尾字での活用変化をなす。つまり、
中、受動態は、語幹と人称語尾をつなぐ連尾母音<ο/ε>なしで、直接
人称語尾が付く。その語尾は、第一時制である直説法現在・中、受動態
の人称語尾とまったく同じものである。したがって合音は生じない。
(-μαι, -σαι, -ται= -μεθα, -σθε, -νται)
これら三態のものは、規則的な語形形式をとるゆえ、第一完了とされ、
動詞語幹が子音で始まるのものと、母音によるものとの2類分けされ
うるが、能動態に関しては、以下の語形様式となる。
・・・・・・・・・・・・・・・・
・子音語頭で・・<●ε●~κα>重綴り形式(規則動詞の基本型)
・母音語頭で・・<長音化~κα>母音長音化で重綴りに準ず形式)
英語時制の完了形(現在および過去完了形)では、厳密イコールには表
現できない動詞の行為的意味を含意したギリシャ語の完了時制だが、
(過去的要素を起点含意して、現在時点的完了の結果状態を表わす働き
の動詞形という意味で、概念的には表面化しない<隠れた起点的過去
上の行為や心為など>を示すもの) この場合は、<未完了過去>や
<不定過去>の語形での過去系列時制のしるしでもある、語頭に付く
加音<ε>を共有することで、これまた完了語形のしるしとしている
ので、動詞語幹が母音で始まるものは、さらにそれに加音<ε>の付加
の是非云々が係わり、完了語形への定式化に準拠した活用語形の展開
がリーズナブルに計られるものとる。
ここに母音や子音に関わるルールや、あるいはそれらの合音に関わる、
ある自然法則的な成りわいとなったルールが見え隠れしている。
(ここでは、いわゆる前置詞との合成語であるという動詞に対する加音
<ε>の付け方ルールをも含めたものとして、その可否、適用性が云々
されての成り立ちとなる。)
ある法則性にきっかりと準拠する<第一完了系>の語類では、
その語幹の語頭が、それぞれ子音(一つ或いは二つの)である場合と、
母音や二重母音で始まる場合とでは、それぞれその
完了語形(語幹)に関わる語の成り立ちに、異なる法則性(規則とし
て見られる)があり、通常はそれらの法則に従って、語形成がなされ
ている。
したがって、この法則性により、
▼母音で始まる語幹は、その母音或いは二重母音を長音とする。この長
音化よって、子音で始まる場合の、その子音字に<ε>を付けて、接頭
する<重綴り>とは区別し、しかも子音での<重綴り>の代用と見な
すという規則に従うものである。(ただし<κα>の語幹への接尾は、
<完了能動態>を形成する接尾字であることを留意すべきだ。)
・子音語頭での重綴り形式<●ε●~κα>が、規則動詞の完了基本型で
あるが、
・母音語頭では<母音長音化~κα>という形式で、重綴りが出来ない
代わりに母音の長音化をもって、それ(重綴り)と見なす形式をとる。
例えば、<ελπιζω=エルピゾー> の動詞語幹 <ελπιδ-> は、語末の
<δ>が、完了の<時制接尾字:<-κ>または、<-κα>>の前では脱落
するのルールにより、<ελπικα>となるが、その語頭が<母音>であ
るゆえ、その母音による加音<ε>付加の重綴り音節は成立せず、語頭
の<ε>が(ε+ε)で、自然に長母音<η=エー>となりうることで、その完
了系語幹、<ηλπικα='エールピカ>が出来あがるものとなる。
元々、完了時制での子音語頭による基本形が、<ε> を伴った頭字の
<重綴り>でもって作られが、これに対し母音語頭での<母音+母音>
では、合音して本来的に同系の長音節化を促がすものとなり、その自然
な発音法則により長音化することの妥当性が見られていると、見なして
よいわけだ。(下の a.) でその例を幾つか示す。)
(ただし、前置詞+動詞の複合語では、前置詞先頭での完了時制変化
は決して行われないということを留意しての適用外と見なすべきだ)
<α>は、<ε>と同じように<η>の長音に、<ο>は、強勢的で、<ω>の
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
長音となるのが通例である。
a.) 単母音の語頭で、長音となり、<-κα>を接尾するもの例:
(動詞語幹に字形変化がなく、規則的なもの)
αγιαζω → ηγιακα(ηγιασμαι中、受動態=
きよめる、聖別する、)
動詞語幹<αγιαδ->は<ζ>を<δ>に代えて脱落する。
αγαπαω → ηγαπηκα(ηγαπημαι同々=愛する、)
(*語幹の語頭だけでなく、末尾の母音<α>も、
長音の<η>となる。)
動詞語幹、この場合は、<αγαπα->で、通常、語尾が<-ω>
で終わるタイプの動詞を<-ω動詞>と言って、このタイプが
大多数を占めるが、その語幹が母音で終われば、完了形の三態
だけでなく、他の未来、第一不定過去、不定過去受動態の時制
接尾字(σ,σα,θε,orθη)が付く前の語幹母音も同様に、
長母音化の<η>となる。
ακολουθεω → ηκολουθηκα(従う、)
(*接尾する語幹末尾が母音字の場合も、長音字となる。)
αμαρτανω → ημαρτηκα(過ちをする、罪を犯す、
間違いをする、悪い事をする)
(*動詞語幹は接尾音節<νω>のνはωと共に除いたもの、
その語尾αは長音化する。流音動詞ではない。)
εγγιζω → ηγγικα(近づく、I come near)
(*語幹<γγιδ(ζ)>の<δ>が脱落して、<κα>の接字)
ελεεω → ηλεηκα(ηλεημαι中、受動態=憐れむ、I pity)
(*同じく語幹語尾も長音化し、現在系列の現在及び未完了
過去などは、合音動詞としての人称語尾活用をなす。)
ερωταω → ηρωτηκα(ηρωτημαι同々=尋ねる、求める、問う、I ask )
(*同じく語尾も長音化、これも合音動詞である。合音動詞
については、後の方の個所で述説している。)
ετοιμαζω → ητοιμακα(ητοιμασμαι=準備する、I prepare)
(*語幹語尾<δ(ζ)>が脱落した後の<α>などの母音字は、
語尾ではないから長音化しない。)
b.) これに準拠しない不規則なものが、多々あり、これらには、
<第二完了系>の語類もあり、予測しがたいものもある。
・不規則変化だが、語頭が長音化となるもの:
αγω → ηχα(ηγμαι は 中、受動態 =導く、I lead )
<ηγκα>とはならず、<γκ>を一つ音としての<χ>となして、
<-κα>代りに<-χα>へ、第二完了
οραω → εωρακα又はεορακα(ωμμαι中、受態=見る、知る、会う、
味わう、経験する、他、 I see, I look,or view,meet)
第一完了である。第二完了としては<οιδα>があるが、
完了時制の意としては使用されていない。
(昔の形式のままなのか、<ο>が<ω>で長音化、<ε>が
完了語形に準ずる形でトップに付く。)
*この語は、コイネー時代には同義語として、他に2プラス1の
用語が共存、競合していた関係上、一つの語としての全諸時制
をカバーできなかったようである。それゆえ、一語からの規則
的な予測が困難となっている。他の語源的系統は以下である。
ⅰ)ειδω と ιδω → ειδον(οραω の第二不定過去)、又は
ειδα(第二不定.)、οιδα(第二完了)、ηδειν(第二大完了)
現在、未来、未完了時制では、使用されなくなり、すたれるが、
不定過去時制(第二では、優位を占めて存続した。この場合、
ιδω の存続時制は、上の οραω および下の ⅲ)の βλεπω
両者の<第二不定過去分詞・能動態>での活用語として用いら
れている。その
単数の主格・呼格は、ιδοων,ιδουσα,ιδονである。
第二完了の <οιδα> が現在及びその現在時制能動態系列とし
てのみ、直説法、接続法以下、一連の活用形で使用されている。
=知っている、わかっている、(現在の状態継続動詞として、)
さらにこれの大完了として、<ηδειν>が、未完了過去時制
の意としてその活用形を見る。
同類の <γινωσκω> =知る、さとる、理解する、認識する=は、
行為的動作に根ざした類の動詞系の意味として、現在状態を
示すのに使用される。
ⅱ)οπτω → οψομαι(未来)、 ωφθην(第一不定過.受動.)
これは、現在形がすたれ、上記の如く、2つが残存使用された。
よって、ⅰ)とⅱ)の存続語と、上記<οραω>によるものとで、
各時制の基本型(六つ)がひとつの関連付けのグループとして、
一応の使用定着を見た。
(現在、未来、不定過去、完了、完了の中・受動態、そして、
不定過去の受動態の六つが一つの動詞の基本型である。)
--------------------------------------
ⅲ)βλεπω → βλεψω(未来)、εβλεψον(未完了)、
εβλεψα(第一不定過去)
この動詞は、上の三つによるグループ外の同類語だが、その
使用の在り方度合いによって、関わりを持つものである。
つまり、一連の <οραω> 系では、現在と未完了時制とに
関しては、優先一般的に <βλεπω>系にその使用頻度を譲り、
それ以外の他の時制においては、
<οραω> 系が通常一般的に優先使用されるという、状況で
あったと云うわけである。
(通常は第一不定過去か、第二不定過去かで、完了時制の語形が
推測し易いが、第一、第二の両方を有する動詞や、上記の如く、
3つ、4つの同義語がさらに絡んでの一連の時制活用グループ
になる場合は、全く推測が困難である。辞書で調べ、覚えるし
かない。)
・不規則変化で、語頭の長音化しないもの:全く予測不可も多ある。
ακουω → ακηκοα(ηκουσμαι中、受動態では長音するが、
意外な能動語形の第二完了となる=聞く、I hear)
未来や不定過去は、全く規則的であるが、、
ανοιγω → ανεωγα(中、受動態では、ανεωγμαι と、
長音化の ηνεωγμαι の両方がある=開く、I open)
εγειρω → 能動態欠如vb (εγηγερμαι中、受態のみ、
受動形が能動の役をなす=起す、起きる、I raise up,rise)
この動詞は、<流音動詞>と言って、時制活用には、要注意
すべきものだ。あとに出てくる単語で説明しているが、
要するに<動詞語幹>が現在系列の諸時制のどれかで、字
形を変える事がよくある。
この動詞では、未来時制での語幹が <γερ-> となって、その
基本型は <εγερω> である。通常での未来時制接尾字 <σ>を
とらないで、その代わりに<ε>+連尾母音<ο 又は ε>+人称
語尾の形で、合音規則に則して合音の字音をなすものとなる。
不定過去時制に関しても、第一アオリストとしての形式をとる
が、<-σα>の付く基本型ではなく、σ のない<-α>での語形で
人称活用変化する。
この動詞の第一不定過去は、<ηγειραエーゲイラ>となる。
ερχομαι → εληλυθα(θ は κ の転化、=行く、来る)
この動詞は能動形欠如動詞である。したがって現在時制の
トップに中態の語形がくる。現在時制においてのみ中態と
受動態の語形は、まったく同形である。
能動態欠如動詞は、それほど見られるものではないが、
特に前置詞との合成の複合語を成すものもあるから、同じ
種類の使用頻度が高いと見なしうる。
未来形や不定過去(2nd.aor.)と同様に予想の難しい完了
形である。(未来形 <ελευσομαι> であるが、通常ならば、
<ερχ->の <χ->が <σ> と一緒になって <ξ>=ks となり、
<ερξομαι> =eruksomai なのではと、予想できるわけ
だが、それが当て外れで間違っているのである。
不定過去2nd.aorも <ηλθον> という語形であるが、能動
態欠如動詞なのに、その第二不定形は、何故か能動形の姿を
しているのだ。第一不定過去となるのか、第二不定過去と
なるのかさえも、全く見定め予想も付かないものである。)
εχω → εσχηκα(持つ、所有する、保つ、帯びる、携帯する、
抱く、さらに他の意もアリ)
現在と未来形 <εξω> だけが動詞語幹 <εχ->に基づいて
いるが、他の時制は、語幹変容をなしている。
不定過去は、第二不定の <εσχον> であり、その語幹か
ら完了語幹が定められての第二完了動詞である。語尾には
規則的な通常第一完了の <-κα> をとどめている。
εσθιω(εσθω) → εσθηκα <第一完了> 又は πεφαγνα<第二完了>
(食べる、I eat、)
第二aor. = εφγον, fut = φαγομαιなど、現在形の
基本型から他の諸時制の語形を想定する事がまったく不可
能な不規則語幹の動詞である。
(この動詞は、他の同義語との相関使用上、相互活用化され、
一つの活用枠用語類のものとして観念化されている。この
場合、<φαγω 又は φαγεω>という動詞の第一基本型
の使用が、全く廃れてしまい、不定法inf. <φαγειν=
to eat>や、接続法、及び他の諸時制で用いられ、活用的な
紛らわしさ、誤謬を避けて、<εσθιω>との、それによ
る使い分けを妥当化させている。
上に記した、第一及び、第二完了の語形は、それ故、推量の
域をでない架空基本型である。つまり、LXX70人訳旧
約聖書や新約聖書、或いはホメロス等、ずっと古い文献や、
その他古いパピルス文書などにおいても、それらの完了形
の基本型並びに活用形が見られないということである。)
ιστημι → εστηκα(過去時制の活用形に準併して、完了形も、
語頭の <ι> は長音化せず、短音の <ε> となる。けだし
動詞語幹を <στα-> と規定すれば、<σεστηκα>の
重綴り <σεσ->は、音声上短縮され、<εσ->となったと
いえる。
現在語幹<ιστη-> の <ι-> は、<μι動詞>としての現在
時制を示すもので、現在系列特有の重綴り(σι-)の省縮し
た印字音である。
この動詞は、
自動詞と他動詞の両方の使い分けがあり、第一と第二の
両方の不定過去形を持つ。以下の如く、
・自動詞:第二不定過去、完了時制、全ての時制の中、受動態で、
=立つ、起きる、 起こる、立ち行く、
第二aor.act.は、εστην=`エステェーン
完了形 act. は、εστηκα=`ヘステェーカ
・他動詞:現在・未完了・未来・第一不定過去能動・受動態で、
=立たせる、立てる、起こす、すえる、置く、確立する、
第一aor.act.は、εστησα=エステェーサ
完了形 act. は、εστακα=ヘスタカ、このperf.
*act.は、後に派生した(BC1世紀頃)ιστανωの
完了能動形である。
[注]:上記 <ιστημι>ヒステーミ のように、直説法現在での第一基本語形(能動・
第1人称・単数)の語尾が、<-μι>で終わる動詞を<μι(=ミー)動詞>と
云っている。
この<μι動詞>は、圧倒的に多い<ω(=オー)動詞>に比べ、数えられる
ほどの数しかない動詞である。
活用変化に関しては、<ω動詞>活用とは別個の<μι活用>として、
区別して捉えたほうが良い。
人称語尾や合音ルールも、現在形と第二不定過去系列以外は、<ω 動詞>
活用方式に準じている。
*古代世界語となったコイネー・ギリシャ語の動詞語群の体系を語
形の容姿にだけ視点を置いて見た場合、三つの形体に部類分けす
る事ができる。直説法現在・第一人称単数語形をベースとして:
・一つ目は、語尾が<-ω=オー>で終わるもの:大多数の動詞がこれだ。
この<-ω>群には<-αω>、<-εω>、<-οω>で終わる<合音動詞>
があり、通常の<-ω>動詞は、現在形単数一人称の語形がその
まま第一の基本型であるが、この<合音動詞>のものは、その第一
基本型及びその現在系列(現在形と未完了過去形)に対して原形と
なる語形として<-αω、-εω、-οω>で終わる形をとる。
したがって、その語幹の末尾<α-,ε-,ο->が、連尾母音<ο/ε>
結合人称語尾と合音することにより人称活用変化するという点に
注意すべきものとなる。
また、この類とは異なった別の類として、<流音動詞>と言われ
るものがあり、これは、4つの子音字<λ、μ、ν、ρ>が、それぞれ
<-ω>の前に来て、その語幹尾となっている、いわゆる、それの
時制活用には特に注意すべき部類が含まれている。
・二つ目は、<-μι=ミー>で終わるもの:複合動詞を加えても極少数。
このグループには、<ειμι=エイミ>(私は~である、I am)という、
諸時制間において極めて語形の不規則な動詞も含まれている。
・三つ目は、<-ομαι=オマイ>で終わるもの:これは能動態欠如動詞
で、中。受動態の語形をとり、能動の意味を成す。
これも複合動詞を除けば、数的には極希少である。
c.) 二重母音の語頭で、長音となるもの、ならないもの:
・長音となるもので:変則なもの
<αιτεω → ητηκα='エ`ィーテーカ>(求める、願う、頼む)
諸時制間こぞって規則変化の動詞と言える。
語幹語頭の二重母音 <αι>は、α が η と長音化するが、
<ι>は、その <η> の下書きのイオター(ι)になる。
ただし合音動詞だから、現在形は <αιτω>と
語末の<-ω> へと曲アクセントに移行する。
<αιρω → ηρκα='エ~ールカ>(取り上げる、取り去る)
これは<流音動詞>と言い、<λ,μ,ν, 及び ρ>の
子音で語幹末尾が終わることで、ある合音特性をなす
部類の動詞である。
(未来と第一不定過去の語形は、通常の規則型方式を
とらない。<αρω=アロー>と、<ηρα=ヘーラ>となる。
第一アオリ.は、<σα>ではなく、<α>だけを付加する)
・長音化しないで:準規則的に、基本型に準ずるもの
(ευで始まる下の語は、副詞の<ευ>との複合語と見なされた
ものとされ、語頭の変化はしない。)
<ευλογεω → ευλογηκα>(祝す、ほめる、賛美する)
合音動詞の語形を示すもので、現在系列の現在形は
その第一人称<ευλογω>である。
<ευρισκω → ευρηκα>(見つける、発見する、見出す)
語幹内に変化があり、諸時制の間には不規則が見
られる。不定過去は第二アオリストで<ευρον>等。
<ευχαριστεω → ευχαριστηκα>(感謝する、I give thanks ~)
<-εω> での原形をとどめた合音動詞、ゆえ現在形
は <ευχαριστω>で合音活用変化を始める。
<ευαγγελιζω → ευηγγελικα'ユゥエーgゲリカ>
(福音を伝える、I preach the gospel)
<ευ->に合成する語形のトップの <α> 母音字の
長音化 (→η) が過去時制系列でなされている。
d.) 以上の a) 及び b) に準拠しない、予測しがたい不規則なもの、
及び <-μι動詞>類の主要なものを列記:<第二完了形となる>
<αφιημι → αφεικα>(行かせる、去らせる、赦す、
許す、許可する、そのままにする、残しておく)
この語は、前置詞<απο> と動詞<‘ιημι> との結合に
よる複合動詞(απο は、硬気息符の動詞の前では、<'αφ->
となる)である。よって動詞語幹は、語尾の<-μι>と語頭の
<‘ι>を省いた<η>が、もとの短音に戻った音字の<‘ε>と
なる。不定過去での加音 <ε> 付けでは、曲アクセントの
付いた長音<η>となるが、完了では、<ε+ε>で、原形的
合音をなして、曲アクセントの付いた<-ει->となる。
・完了の中・受動態は、
単数:<αφειμαι>,<-σαι>,<-ται>
複数:<αφημεθα>,<-σθε>,<-νται>
*直説法での
第一不定過去(第1アオリスト)能動態:<αφηκα>
中 態:<αφηκαμην>
受動態:<αφειθην>
第二不定過去(第2アオリスト)能動態:<->
中 態:<αφεμην>
受動態:<->
・接続法での第二アオリスト能動は、
単数:αφω, αφης, αφη
複数:αφωμεν,αφητε,αφωσι(ν)
<απολλυμι → απολωλα>(滅ぼす、殺す、失う、
中態形で:滅びる、なくなる、救われなくなる)
この動詞は、時には<-μι>活用の代りに<-ω>活用、
つまり<-ω動詞>としての諸時制活用の語形もあ
わせ持っている。しかもそれぞれの時制で語幹変化
をしているので、不規則な動詞である。
<-ω動詞>の現在形:απολλυω
未来形:απολεσω
第一不定過去:απωλεσα
<δεικνυμι → δεδειχα>(示す、見せる、指し示す)
この動詞も<-ω動詞>としての諸時制活用語を併用
しており、<-μι>活用のものよりも多用されている。
<-ω動詞>の現在形:δεικνυω
未来形:δειξω
第一不定過去:εδειξα
<φημι → ειρηκα>(言う、言明する)
同義語<λεγω>と共通の諸時制変化の語形を
共有している。不可解極まるようなもので、それ
らは、個々に全く不規則な諸基本型をなしている
ゆえ、もとより予想不可能なものである。
これはまた、明らかに<-μι動詞>の形をしてい
るわけだが、その語自体の全活用を網羅的に運用
して自存してないので、実質的には、<-μι動詞>
とは言えない。その時制活用は、ほとんどコイネー
語では使用されず、廃れていると見られる。
未来以下の基本形:
(ερω, ειπον, ειρηκα,
ειρημαι, ερρηθην 又は、ερρεθην)
不定過去は、上記の <ειπον> であるが、これ
は明らかに第二不定の語形であり、<λεγω>
からくる、認知不可能、不可解な不規則語幹の第二
アオリストだと見られる。しかし、当然ながら、それ自体
の活用語尾変化は、全く規則どうりである。
<φημι>本来の不定過去としては、
第二アオリストとしての基本形:<εφην> がある。
(活用語尾は、-ην,-ης,-η∥-ημεν,-ητε,
-ησανとなり、
次にある下の<ιστημι>の第二アオリスト:
<εστην>の語尾活用と同じである。)
<ιστημι → εστηκα>・・・・前掲 b.) にて記載。
<διδωμι → δεδωκα>(与える、I give、)
動詞語幹は<δο->で、その語幹末尾<-ο>は、能動
態では、第一不定過去の<σ>の前と同様に<κ>の
まえでも、母音であれば長音化するの規則に従い、
<-ω>となり、完了接尾字<κα>が接尾される。
重綴りは完了能動態の特徴規則どうりの<δε->が
前綴りされる。
*完了中態、受動態では、語幹が母音で終われば、
その母音は、人称語尾の前で規則的に長音となると
いう、通常<-ω動詞>のとるような規則には従わ
ない。(δεδο- は δεδω-とならない。)
単数:δεδομαι, -σαι, -ται
複数:δεδομεθα, -σθε, -νται
*因みに現在系列に関わる現在語幹は<διδο->で
あり、直説法現在・能動態では、
語幹末尾の母音<ο>が長音化して<ω>となるのは、
単数(1-3人)だけで、複数(1-3人)は、そうならない。
こういった一貫しない、ちぐはぐな活用は、この
<-μι動詞>自体の特質であり、人称語尾が連尾
母音(ο/ε)なしに、直に語幹に付加される形式を
とっているので、それは合音によるものではない。
・直説法現在の中態・受動態では、
単、複数共に語幹語尾の長音変化は行なわれない。
一人称単:<διδομαι>
同 複:<διδομεθα>
<-μι動詞>の現在形・能動態の人称語尾は次の
ものである。
単数:1<-μι>, 2<-ς>, 3<-σι>(又は <-τι>)∥
複数:1<-μεν>, 2<-τε>, 3<-ασι>∥
*他にも<-μι動詞>特有な共通一般的な特徴を示す
面や、その個々の動詞語形により、それぞれに細か
い発音上からの字音変化が見られうる。
・不定過去系列での能動態に関しての共通な特徴は、
直説法においては・・第一不定過去の語体、
その他の法では・・第二不定過去の語体をとる。
(διδωμι, τιθημιなどの動詞において)
・通常の<-ω動詞>の場合では、
接続法での第一不定過去の能動態および中態は、
その現在形との違いは、語幹と人称語尾(連尾母音
を含めたもの)の間に<σ>があることのみである。
これは、現在語幹の形には<σ>が付いてないからで
ある。しかし、<-μι動詞>では、その不定過去系
列では、<σα>の代わりに< κα>を時制接尾
字にしているので、<-ω動詞>のようには、<κ>
を活用するには難となる。ゆえに第二不定過去の
語形での使用となる。これには時接尾字<σやκ>
が付く事はありえない。
<τιθημι → τεθεικα>(置く、すえる、安置する、定める、
設定する、制定する、他の語との句により、多様な
意味を展開する。)
*諸時制に関わる動詞語幹は、<θε>であり、その
語幹変化も長音化以内で、安易なものである。
語頭の<τι>は現在系列を表わす<重綴り>であるか
ら、他時制との見分けも容易である。
語幹<θε>は<ε>が母音だから、長音<η>や<ει>
となる。ただ不定過去受動態だけが長音規則に反して
<ε>のままで、その接尾字<θη->での二重の<θ>音
節を避けるために語幹のほうの<θε->を<τε->
と変えている。
・完了の中・受動態は、その語幹 <τεθει-> で、
単数:<τεθειμαι>,<-σαι>,<-ται>
複数:<τεθειμεθα>,<-σθε>,<-νται>
*直説法での
第一不定過去(第1アオリスト)能動態:<εθηκα>
中 態:<εθεικαμην>
受動態:<ετεθην>
第二不定過去(第2アオリスト)能動態:<->
中 態:<εθεμην>
受動態:<->
・接続法での第二アオリスト能動は、現在能動の <τιθω>の
<τι-> を省いた形で活用される。
単数:θω, θης , θη(下書きιイオタ付き)
複数:θωμεν, θητε, θωσι(ν)
(もしも第一アオリストならば、<σ>が語尾の前に現れる
ことになるが。)
▼一つの子音で語幹が始まる場合は、二つの子音で始まる場合の予測
しがたい択一的な形成を別にして、語頭の子音字に、<ε>を後付けて、
重綴りの形となす。例として:
第一完了の類で規則的なもの、<●ε●~κα>形式となっているもの。
(重綴り正規のもの)
<完了形規則動詞は、この重綴り形式を基本型>とする。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
a.) 一つの子音で始まる場合: 重綴りの<●ε●~κα>形式
(動詞語幹の末尾字が母音なら、規則的に長音<η>となり、+κα
の形体となる。しかし例外がまったくないわけではない。)
βαλλω → βεβληκα (投げる、捨てる)
動詞語幹は<βαλ>で、この動詞は<流音動詞>
という特性をなす動詞で、<動詞語幹>が常に
<λ,μ,ν,及びρ>のいずれかの末尾子音で終わ
る部類のものである。
流音動詞類は、未来、不定過去時制(第一、第二
及び不規則な不定過去のいずれをなすかで)にお
いては、通常の規則的時制の活用変化をしない。
また、動詞語幹の語形変化も見られ、現在時制の
語幹とは異なる。
*<βαλλ>は現在語幹であり、これにより、
現在形と未完了過去とは、それぞれの人称語尾活
用がされる。しかしこれら以外の時制(未来、不定
過去ほか)は、動詞語幹<βαλ>により語形化され、
未来語幹や、不定過去語幹得るものとなる。
・未来:<βαλω>で、通常規則型の未来形の感じの
βαλλσωやβαλσωのような語形(及び
その活用変化)にはならない。
(動詞語幹βαλがそのまま未来語幹となる)
・不定過去:<εβαλον>で、これは第二不定過去
であり、第二不定過去の人称語尾変化をなす。
(動詞語幹βαλが不定過去語幹ともなる)
通常の第一不定過去の基本型の<ε+語幹+σα>
の語形式をとらない。
*第一不定過去は語形式が一定していて、規則的であるが、
第二不定過去は語体内が変化し、現在語形と相違したも
のとなり、したがって<現在語幹>対して、別個に<第
二不定過去語幹>を有するものとなる。これに基づいて
未完了過去と同様な活用変化、つまり第一不定過去での
時制接尾字<σα>を付加しないで、語幹と人称語尾とを
つなぐ連尾母音<ο>又は<ε>が入り、単、複の人称活用を
なす。
(第二不定語幹となる語体内変化、あるいは語形が全く
予知できないゆえ、個々に辞書で調べる他ない。また、
極少数ながら、第一と第二不定過去の両方、つまり、2つ
の語形単語を持つものがある。)
*ギリシャ語動詞は、現在語幹と動詞語幹が同一のものも
あるが、異なる語形をとる動詞のほうが多い点に注意。
δοξαζω → δεδοξακα (栄光を現す)
動詞語幹の末尾<ζ>は<δ>に代えて脱落する規則に
従って、<κα>が結尾する。
καλεω → κεκληκα (召す、呼ぶ)
発音上<α>が弱音減消化しうることから、<α>
音字は、脱落している。他の語でもありうる。
(<-εω>で終わる合音動詞、現在形は<καλω>で、
語尾<-ω>に曲アクセントが付いて強めの長音オーとなる。
*合音動詞は結果的に未だ合音していない、原形的と
も言える元の語形から動詞語幹が起定されるものと
なる。しかしこの動詞語幹からすべての諸時制の基
本語形が規則に完全準拠して成り立つ訳ではない。
この用語も<抽出された文法活用の規則>には則さ
ない例外、不規則な語形成をなす部分を持っている
と見られる。
・未来と不定過去系列において、<σ(σα)>の前の語
幹末尾の母音(ε)が規則上では長音化すべきだが、
長くならずそのままである。(例外と見る他ない)
<καλεσω>, <εκαλεσα>
上記完了形では、<η>と長くなり、規則にそうが、
<λ>の前の<α>が欠落して完了語幹の形を変えてい
る不規則性を示している。
・さらに不定過去受動態では、完了語幹の<-κλη->
に受動形接尾字<θε>の長音化した<θη>が後付さ
れ、語頭加音<ε>の付加の規則に従って、その基本
語形<εκληθην>を成しているが、不規則な
語形変化を示す。本来の動詞語幹の<α>を有した、
<εκαληθην>とは成りえず、そうであれば、
不定過去時制の能動形も <λη->となってしかるべ
きだと言いかねないことになる。
*やはり、こういった不規則な語形変化は、見出され
えた文法法則の規則性以前に、非常に強い音声律上
のイントネーション・アクセントの規則性がしっか
りと根付いていて、その語性音律から自ずと語形変
化が結果してくるものと考えられる。(話し言葉も、
イントネ・アクセントによって、言葉の意味上の時制及び動作
感覚が瞬時明敏に判別される言語特性を秘めていた
と思われる。)
λαλεω → λελαληκα (語る、喋る) 語幹の末尾が
母音字なら、長母音になる通例規則により<ε>
が<η>になる。
σ、σαなど他の時制接尾字、態でも同様に。
λυω → λελυκα (解く、ほどく、放つ、分解する、壊す、破る)
最も単純明白な規則活用をなして語形展開を示す動
詞であるので、教書テキストでの例語で使用される
規範語のようなものである。
これの動詞語幹は、人称語尾<-ω>を外した<λυ->
であり、上の完了能動形は、この動詞語幹に重綴り
<λε->を接頭し、<-κα>を接尾した、例の始めに説
明した<●ε●~κα>形式の典型である。
[注]: ここで動詞における諸語形の形成に関わる<語幹>に関しての一応の
の一応の見識を捉えておこう。ここでは動詞<λυω>をその規則動詞
の典型例として利用する。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
まず<動詞語幹>は、動詞の<原形語幹>或いは<基本語幹>
であると認識すべきで、この基本動詞語幹から、全ての諸語形
語幹が規定表示できるものとなる。
しかしながら、これは<λυω>の如き典型的な<規則動詞>
を基底として捉えた場合のものである。
・動詞語幹は、<λυ->
この動詞の場合、現在語幹と同じになっている。
こんなケースは、他の動詞にも度々あることだ。
(多くの動詞は、動詞語幹と現在語幹とが異なる
傾向を示す。)
たとえ動詞語幹と時制語幹である現在語幹とが
同形でも厳密に区別して扱わなければならない。
・現在語幹は、<λυ-> For Active, Middle And Passive
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
動詞の現在形が語尾活用変化する際、変化せず、
不変の基幹となっている語体部分。
これは、直説法現在形の能動、中動、受動の
三態において共通するものである。
(動詞の語尾活用は、人称と単・複の数の区位を
示すものとして、直説法では全ての時制形で、
行われている。)
*現在形・能動態の語尾活用を例に挙げると、
単数:1人称→ -ω 複数:1→ -ομεν
2 〃 → -εις 2→ -ετε
3 〃 → -ει 3→ -ουσι
これらの語尾は、厳密には<連尾母音ο/ε>と
人称語尾との結合から成り立つものである。
連尾母音なしの能動形<人称語尾>は、
<ω, ις, ι ∥ μεν, τε, ουσι>
である。だが、語幹とこれらの人称語尾をつなぐ
<連尾母音οとε>には
一つのルールがあり、人称語尾の始めが<μ或い
は ν>であれば、<ο> 連結で、それ以外ならば、
<ε>による連結となる。
この連尾母音をとるルールは、<未来形>と、
他に<未完了過去時制>とにおいてのみ、その適用
が成立しているものである。
しかし、この連尾の連結ルールの実行には、
<母音と母音とが一つに合音する> ルール現象が
生じていることを留意すべきだ。
したがって上に挙げた現在形の語尾活用で、特に
注目すべきは、以下のものである。(合音のルー
ル外のものは、複数の1及び2人称だけである。
それらの人称語尾は、子音<μ,τ>であるから)
単数・1人称で、連結母音<ε> + <-ω>との結合
では、<-ω>となる合音ルールが適用され、
同じままとなる。
複数・3人称で、連結母音<ε> + <-ουσι>は、
<ε>と二重母音<-ου>とが結合する合音ルールが
適用され、これまた同じ <-ου> を結果して、
<-ουσι>と成り得るのである。
*この<連尾の原則ルール>を踏まえた上で、現在形
の活用人称語尾を<単数:-ω,-εις,-ει∥複数:
-ομεν,-ετε,-ουσι> と一つに捉えて
見定めると都合が良い。
*中態、受動態の現在形人称語尾は同一である。
ゆえに<λυ- +人称語尾(連尾母音を含む)>
の形式では、両態とも全く同じ語形となる。
単:-ομαι, -η(-εσαι), -εται
2人称の<-η>にはその字下に<下書きの
イオター>マイクロ<ι>の字が付いている。
複:-ομεθα, -εσθε, -ονται
中・受動態で注意すべきは、単数・2人称だけである。
他は<ο>或いは<ε>を除いたものが、本来の原人称
語尾であることが判る。
単数2人称の本来人称語尾は <-σαι> で、
その <-η> は、<-εσαι> の短縮形である。
σ を除いて ε と αι をつなげ短縮すると、長音で
<下書きイオター<ι>>付きの <-η> となるわけだ。
(ε と α が共になった時、先になった方が勝って
その長音となる、の合音規則に依っている)
・未来語幹は、二つの語幹を持つ。
①<λυσ-> For Active And Middle Only
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
この語幹は<動詞語幹>に未来の時制接尾字:
<-σ> を加えるだけで作られる。
<動詞語幹+接尾字<-σ>>の形式の語幹となる。
この<未来語幹>は、
<能動態と中態>にだけ適用されるもので、未来
語形をつくる語尾活用の変化の際、変化せずに、
不変基幹となる語体部分である。
*未来形は、現在形と同じく<現在時制系列>に
属するゆえ、現在形とまったく同じ人称語尾を
持つ。したがって現在形の人称語尾をそのまま
付加すれば、それらの活用は成り立つ。
単:λυσω, λυσεισ, λυσει,∥
複:λυσομεν, λυσετε, λυσουσι∥
複数3人称は<~σουσιν>と、<ν> の字が
追付される場合がある。これは、発音イントネーションか
らの語調に根ざしたもので、特に後に続く語の始
めが母音の時や、文章の末端や終付時に来た時に
加わる可能性が高い、可動的<ν>と言われるもの
である。しかし動詞の語形が母音(字)で終わって
いるものならば、そのすべてに付けられ得ると見
なしてはならないものである。
・未来の中態形は、現在の中・受動態の人称語尾と
同一であるから、
単:λυσομαι, λυση, λυσεται ∥
複:λυσομεθα, λυσεσθε, λυσονται ∥
②<λυθησ-> For Passive Only
・・・・・・・・・・・・・・・・
この未来語幹は、受動態専用である。
<動詞語幹+受動接尾字+時制接尾字>で成る。
即ち<λυ+θη+σ>の形式により、
<λυθησ->の形の如き語幹を形成し、
<未来受動態語形>にのみ適用される。その
活用語形成は、
<λυθησ+連尾母音ο/ε+人称語尾>の
形式となる。
人称語尾は、現在系列の現在、未来の中態のもの
と同じである。
*<受動接尾字:θη>は未来時制と過去時制の
両受動態専用のもので、現在時制には無いこと
はすでに知りえた如くである。
何ゆえ、未来にこの接尾字<θη>が適用されて
いるかは、極めて明快な文法的道理によるもの
である。つまり、現在時制の受動態とは明確に
区別すべきであり、と同時にしかも、過去時制
(不定過去)の受動態とは、その対アップ関係に
置くべきが妥当だという、語文法理の趣意があ
ったからである。したがって、
能動態及び中態の未来語幹とは、語幹的に全く
別系的な活用感覚を装う<未来語幹>となる。
この<θη>は、直説法では通常<θε>が<θη>
と、母音<ε>が長母音化したものであり、直説
法以外(接続法や分詞など)では、元の<θε>に
依り活用変化(合音アリ)をなす。もっともこの活
用は過去時制だけのことだが。
*未来受動態の人称活用語形は、<受動形語幹=
λυθησ->に、未来中態形とまったく
同じ人称語尾が付いて、活用変化をなす。
単:λυθησομαι, ~η, ~εται, ∥
複:λυθησομεθα, ~εσθε, ~ονται, ∥
・未完了過去の
語幹は、未完了過去形を作るためのそれ本来固有の時制
語幹を持たず、<現在語幹>依りて語形をなす。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<六つの基本時制語幹>のうちの一つを有すると
いうものではないのです。
この未完了過去時制は、現在時制の現在形を作る
基となる<現在語幹>に依拠し、その語幹を持っ
て、その三態(能動・中・受動態)を作るものとなっ
ている。そして中態と受動態は、同じ語形をなす。
*<現在語幹>に基づいて語形をなすということだ
から、<動詞語幹>と混同しないように注意すべ
きである。また、過去時制の仲間であるが、<現在
語幹>をとるということは、現在時点で過去の行
為がいまだ未完了のままである事を示したいが為
である。従って、単なる単純な過去の動作、行為の
した、しないを表わす<不定過去>とは異なり、
はっきりと区別されて用いられる。
(ゆえに<不定過去>での接尾字 <σα> をとらず
現在と同じ<連尾母音ο/ε>にて、同じルール
により、人称語尾が連結展開する。)
語形の形成形式は、以下となる。
<加音<ε>+λυ+連尾母音ο/ε+人称語尾>
=<ελυον>で能動態第一人称単数である。
*加音<ε->は、常に軟気息符<'>が字上に付した
ものでなければならない。
(ギリシャ語の単語は、語頭が母音または二重母
音で始まるものは、ほとんど全て気息符が付くも
のとなっていて、それに準じてのこと。それには
軟気息符< ’>と硬気息符<‘ >がある。)
*加音<ε->が付いてない未完了形は、その語幹の
頭が母音であるからで、全て母音で始まる語幹に
は、加音<ε>を長音化する如くに、その語幹母音
を長音の<η->となして、加音とするという方式
をとる。( α 母音なども η-となる)ただし、
<αι->など二重母音の場合は、その長音<η->を
<下書きのイオタ-(マイクロ<ι>)>付きとする。
・能動態の人称語尾は、
単数:1人-ν, 2-ς, 3 なし(可動のν)
複数:1人-μεν, 2-τε, 3-ν(or -σαν)
・中態と受動態の共通人称語尾は、
単数:1人 -μην, 2 -σο, 3 -το
複数:1人 -μεθα, 2 -σθε, 3 -ντο
*2人称単数での<連尾の-ε+σο> だけは、その
活用時には、<σ>を省略し、-ε と -ο が 一つ
になる合音ルールにより、<-ου>と、二重母音
の短縮された語尾となる。ゆえに例によれば、
中・受動の単数第2人称は<ελυου>となり、
この時制では、他のすべての語幹に<-ου>が
付くことになる。
*もしも現在時制において、<能動形欠如動詞>であ
る場合には、未完了過去においても必ず、能動形を
持たない<能動形欠如動詞>となる。
・不定過去
語幹は、動詞によって、第一アオ.か、第二アオ.か、それともごく
稀にその両者を持つものか、それぞれであるので、
それにより基となる語幹の形が決まる。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
*不定過去時制では、能動態及び中態の時制語幹と受動
態の時制語幹が異なるので、受動態だけは、別扱いに
して見定めなければならない。
・第一アオリストは、<λυσα->がその<時制語幹>となる。
・・・・・・・・・・・・・・・・
*動詞語幹<λυ->に不定過去の時制接尾字<σα>
を直結に付した語体が<第一アオリスト語幹>となる。
それは、語形の語尾活用をする際、変化せず不変の
基幹となる部分である。
<ελυσα->から語頭に付した加音<ε>を除いた
部分に相当する。したがって活用語形の形成形式は、
以下となる。
<加音<ε>+λυσα+人称語尾>
時制接尾字<σα>は第一不定過去であることの
字印(ジシルシ)であり、不定過去の基本語形を示す指標
ともなる。人称語尾は、連尾母音ο/ε無しにて、直接
その<時制語幹>に付く。
*加音<ε>は、軟気息符<'>が字上に付したもので、
未完了過去の語形成と同様に語幹の前に付く。
ただし語幹のトップが母音、二重母音の場合は、加音
付けに代えて、語幹の母音を長音化する。
たとえ<α->母音であっても、加音に関わるものとし
て、常に長音の<η>又はそれに<下書きのイオタ(マイクロ
<ι>)付きのものとなる。
*人称語尾は、当然現在時制と異なる、過去時制のものを
とる。能動態のもの、中態のもの、と二つの語尾系がある。
これら二つの語尾系とも、先の未完了過去時制の人称語
尾とまったく同じである。
・第二アオリストは、それ自身の語幹、つまり<第二アオリスト語幹>を
有する。この語幹は、また第二アオリストを持つ動詞の<動詞
語幹>でもあるわけだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ここで、ちょっと第一アオリ.語幹と第二アオリ.語幹の系列的
見分けに係わる認知が必要となろう。仮に動詞を第一アオ族
と第二アオ族に区分け出来たものとして、見てみよう。
( 直説法に基づいた視点をベースにして。)
---------------------------------
・第一アオ族の系統は、
本元語幹: 時制語幹:
======== ===========================
<動詞語幹> → <現在語幹> 能動態、
↓ 中態と受動態
∥ <未完了語幹> 同上、
〃
<動詞語幹> → <未来語幹(1)>能動態と中態、
∥ <未来語幹(2)>受動態
<動詞語幹> → <第一アオリスト(1)>能動態と中態、
<第一アオリスト(2)>受動態
∥ ↓ 代リニ第二ヲトルモノアリ
(第二アオリスト(2)) 受動態
∥
<動詞語幹> → <完了語幹(1)> 能動態、
<完了語幹(2)> 中態と受動態
<大完了語幹(3)>能動態
第一アオ族の時制語幹は本元の動詞語幹を共通の
語体とするようなものとしての、その語体への
依存度が高く、<λυω>のような語形動詞は、
まさに100%的な規則的系列、繋がりの関係
を示している。
・第二アオ族の系統は、
本元語幹: 時制語幹:
======== ===========================
(<動詞語幹>)×○<現在語幹> 能動態、
↓ ○× 中態と受動態
○× <未完了語幹> 同上、
↑ 〃
(動詞語幹)×○ <未来語幹(1)>能動態と中態、
↓ ○×
○× <未来語幹(2)>受動態
↑
<動詞語幹> ⇔ <第二アオリスト(1)>能動態と中態、
↓ ○×
○× <第二アオリスト(2)>受動態
↑
(動詞語幹)×○ <完了語幹(1)> 能動態、
○×
<完了語幹(2)> 中態と受動態
○×
<大完了語幹(3)>能動態
第二アオ族の各時制語幹にはある一つの共通した同形
語体を元の語幹とするような<動詞語幹>を想定で
きないほど、その関係性の度合いを、見かけの程度
の度差こそあれ、その系列を逸脱したものとなる。
○×表示は、その<ある、なし>を表わし、動詞に
よって<あるもの、ないもの>が出てくる。
とにかく、現在系列と過去系列との間に語幹語体の
同系共立関係を系成化していないという、異併存を
実際に現わすのが、その動詞の不定過去が第一では
なく、第二のものであると現示する語形そのものを
意味するものとなる。したがって、
第二アオ族の動詞の語幹状況は、ある一つの<動詞語
幹>から、それぞれの<時制語幹>があたかも固有
な<時制語幹>へと<語体変化>成して存立したよ
うな容姿を見せてもくれる。
ある動詞には、現在と未来時制に対しての元の<動詞
語幹>、不定過去第二に対しても、その元の<動詞語
幹>が別にあり、あたかも二つの<動詞語幹>が存在
するのかと見紛うほどである。
それは二、三の同義語動詞が絡み合って、動詞の活用
系列を関係づけるものではない、一つによる動詞にお
いてであるが。
-------------------------------
以上のような動詞の第二アオリスト環境の状況ゆえに<λυω>
という動詞を例に出して示すのには難あり、不適切だとも。
というのは、この動詞は、第二アオリストにはならないし、また
それを持たないので、実際的活用語幹がないからだ。
実のところ他の動詞で示すのが妥当かも。よってここでは、
単なる語形の形式表示の例としてのみ示すものとする。
以下は語形組成の上で、<λυ>語幹を仮に用いているに
すぎない。
<加音<ε>+λυ+連尾母音ο/ε+人称語尾>
という形式となる。 <+λυ+>のところが、
<第二アオリスト語幹>本来の拠点である。
*加音<ε>関わるルール、語幹語頭母音の<η->への長音化は、
第一アオリスト、未完了過去と同じである。
*第二アオリストは、不定過去第一アオリストの時制接尾字:<σα>を
とらない。代わりに連尾母音ο/εが、<第二アオリスト語幹>の
後につづき、人称語尾を受ける。語尾は過去系列(第二時制)
のもので、
未完了過去と同一にて、能動態と中態の語形をつくる。
動詞 <λυω> の動詞語幹は<λυ->で、現在語幹とは
同一である。例としての、この場合の第二アオリスト語幹も、仮に
同一であるとして、その仮第二アオリストとしての基本語形(第一
人称単数)は、<ελυον> となる。しかし、
コレハ実際上の第二アオ.では、存在シナイ。が、先に挙げた
<未完了過去時制>においては、れっきとしたその時制基本
語形として、正規に存在し、その活用をなすものである。
ここで実際に
第二アオリストをとる動詞を、上の形式に当てはめると、
・<βαλλω> の第二不定過去語幹は、<βαλ-> で、
よって、<ε+βαλ+ο+ν> で <εβαλον>
*<βαλ->は、<動詞語幹>でもある。しかし現在語幹は、
<-ω>を除いた <βαλλ-> である。
<動詞語幹>が<βαλ->の形姿は、流音動詞に該当する
ので、未来形は<現在語幹>に基づいた通常の人称語尾変
化の語形とはならない。
(<動詞語幹>+σに替えε+連尾ο/ε+語尾で、ε と
連尾ο/εは、合音ルールで合音する。)
*この動詞は、<流音動詞も第二アオリストをとることがある>と、
いった一般通念に該当するものである。
・<λειπω>の第二不定過去語幹は、<λιπ->で、
よって、<ε+λιπ+ο+ν> で <ελιπον>
*この動詞は、不定過去に第二アオリストをとるが、その語幹は
すでに<現在語幹 λειπ->とは異なるものとなる。
ここで第二不定語幹<λιπ->が、本来の<動詞語幹>なの
か、それとも現在語幹の<λειπ->が本来の<動詞語幹>
なのか、全く迷妄の域を出ないものとなってしまう。
何故ならば、通常の通則では、未来形は、<動詞語幹>に
<-σ>を加えて、その語幹となすが、この動詞の未来形は現在
語幹<λειπ->に基づいて、未来語形の<λειψω>
(-πσ は<ψ>となる)をつくるからである。
未完了過去の語造成は、<現在語幹>に拠るものとして問題は
なかろうが、、、、
結局、第二不定過去をとるような動詞の諸時制環境では、特に
未来形が、現在語幹に準拠しうる事にもなる、或いは、現在語
幹が動詞語幹と異なる場合や、また第二不定アオ.が独自に自前
の<語幹>を有している場合には、未来時制が現在語幹に拠る
事も、往々にしてあり得ると見なすべきこととなる。
この動詞 <λειπω> の場合には、現在形、未来形、未完了
過去と、それらは、まったく規則動詞そのものの如くである。
が、しかしそれら以外では、規則的な方式に習いつつも、語体
語音を変えたところの、不規則的な時制活用をなす、そんな通
常一般的な不規則動詞の類と同じものと見なされよう。
・<πινω>の第二不定過去語幹は、<πι-> で、
よって、<ε+πι+ο+ν> で <επιον>
*この動詞は、現在語幹の形からすれば、全く流音動詞に当て
はまるが、実のところ流音動詞ではなく、また第一アオリストをとら
ない。そして、未来形では、能動形欠如動詞となっている、
<不規則動詞>なのである。
・<πιπτω>の第二不定過去語幹は、<πεσ-> で、
よって、<ε+πεσ+ο+ν> で <επεσον>
*この動詞の現在語幹は <πιπτ-> で、この語体は最初から
容易に知られ得るが、その他の時制語幹を知るに際しては極め
て不規則なため、導出認知するようなことは出来ない。
各語幹を知るには辞書を引き、参考引用されている各々の活用
語形から認知する以外に方法はない。
この動詞の場合、<動詞語幹>は<πετ->であり、現在語幹
とは異なる。
*ところでこの動詞の<未来語幹>は<動詞語幹>に未来の時制
接尾字<σ>が後付した形であるが、語幹末尾がσの前で、
<τ,δ,θ>のいずれかの子音であれば、脱落するの規則により、
この場合は、<τ> が脱落して、未来語幹は<πεσ->となる。
この語幹は、たまたまなのか不規則な<第二アオリスト語幹>と同一
の形を成したわけである。
なおこの動詞は、未来形おいて能動形欠如動詞であり、しかも
その中態は、
<πεσομαι>='ペェソマイ と <πε-> にアクセントのある
通常風のものにならず、
<πεσουμαι>=ペスォゥ~ーマイ と 長音 <ου> が <ο> に
とって代わり、<σου>スォゥ~ー の長音節での<曲アクセント>となり、
その字上に付されるものとなる。
また、この動詞は、第一不定過去(第一アオリスト)<επεσα> をも
有し、両方の不定過去を持つという意味で、希少な動詞である。
不定過去
受動態の
語幹は、<λυθη->が、その<時制語幹>となる。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
これは、第一不定過去の能動態、中態の時制接尾字<σα>の
代わりに受動態の接尾字:<θη>を付ける形である。
人称語尾は、連尾母音ο/ε無しにて、直接その<時制語幹>に
付く。ただし人称語尾は、中態のものではなく、能動形のもの
であることに注意すべきである。また、複数の3人称だけは、
通常の <-ν> の代わりに、別にもう一つある形の<-σαν>が、
規則系の受動態では用いられ、付くものとなる。
活用語形の形成形式は、以下の如く、
<加音<ε>+λυθη+人称語尾>=<ελυθην>(第一人・単数)
単:1<ελυθην>、2<~+ς>、3<~+語尾ナシ>
複:1<ελυθημεν>、2<~+τε>、3<~+σαν>
となる。
加音<ε>は、過去系列(第二時制)の指標として、未完了過去形と
同様に語幹の前につくが、その時制語幹が母音で始まる場合は、
加音<ε>を付す代りに、その母音を長音の<η>とすることで、
加音とする。(未完了や他の不定過去と同じ)
*第一不定過去をとる<規則系動詞>の受動態の<時制語幹>、
例えば、上記<λυθη>の如きもの等は、その受動態の
<時制語幹>に、直接<σ+ο/ε>+現在系列(第一時制)
中態人称語尾を付け加える事で、
<未来形の受動態>が出来上がることが判る。
<λυθη+σ+ο+μαι>= <λυθησομαι>
(前記の<未来形・受動態語幹にて述べた如く。)
*動詞の不定過去形が、能動態及び中態において第一不定過去形
であろうと、第二不定過去形であろうと、それらの動詞に関わ
る受動態は、異なった語形をなす。その<受動態語幹>すら、
第一、或いは第二の<能動態語幹>とは異なる場合がほとんど
である。
受動態接尾字<θη>をとって語尾活用するものを通常<第一
不定過去受動態>というが、なかには限られた動詞で、受動接
尾字<θη>の<θ>を脱落させて語尾活用を難なくするもの
がある。こういったケースのものを<第二不定過去受動態>と
見なすが、注意すべきものである。
(例:γραφω⇒ 単:1 εγραφην, 2 ~φης, 3 ~φη)
この例は、語幹が<φ>で終わるから、それに<θη>が続付す
る場合、<θ>が脱落する現象だから、語幹尾が、<φ> の時は、
いつも要注意ともなる。が、しかし必ずそうなるとは限らない
動詞もあるので、辞書などで調べるほかない。
ただ考えられる所見では、活用語尾形での語末において、
・<-φθην>の語末のものは、その語幹末尾が
π,β のもので、それが<φ>に変っている。
・<-χθην>の語末のものは、その語幹末尾が
κ,γ のもので、それが<χ>に変っている。
・<-σθην>の語末ものは、その語幹末尾が
τ,δ,θ のもので、それが<σ>に変っている。
という語幹末尾に係わる三様の子音グループの変換のルールが
あるので、これらの<φ,χ,σ>の言語事情(相当な数)を意識
して、それらからの<区別立て>をなしていると考えられる。
したがって、<動詞語幹> 或いはイコール <受動態語幹>の
語末が<φ>終わるものだけでなく、<χ>や<σ>で終わる動詞も、
先に挙げた<例:γραφω>のように<θ>が脱落する現象を起こ
すものがあると見られよう。
・完了の
語幹は、<λελυ->の形を完了時制系列の<完了語幹>とするのが、
規則動詞類の例として理解するに良い。
なぜかと言うと、
直説法でも、完了時制の場合には、能動態系列と、中態及び、
受動態系列との二手に分けて捉えるのが妥当で、判り易いから
である。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
この場合の規則形式の完了<時制語幹>は、<動詞語幹>に、
重綴りを語頭に付ける形となる。
<重綴りλε-> + <動詞語幹λυ-> → <λελυ->
重綴りは、<動詞語幹>のトップ子音に<-ε>母音を付けて、
<λε-> の如くなす。これが、基本で、
・動詞語幹トップが、母音や二重母音のものは、重綴りが不適切
だから、それらを長音化、つまり長母音の<η->とすることで、
<重綴り形式>に準ずるとする。
・トップが二重子音となるものには、重綴りするものもあり、
またそうならないで例外的になり、その語幹語頭の前に
<軟気息符<'>の付いた <ε-> > を付加することで、
<重綴り>に準ずとしている。
これはまさに、<過去時制加音 ε->の如くである。
①能動態系:
<時制語幹>の <λελυ-> に <-κ> 又は <-κα> の
時制<接尾字>を加えて作る。
・直説法・完了能動態・第一人称単数形:
<λελυ-> + <-κα> → の形式で、
その語形は:<λελυκα>
を作る。 <-κα>は、直説法能動態の完了形を示す
<接尾字>で、規則動詞の<時制接尾字>の一つでもある。
この形式による語形は、規則動詞の基本型としては、
第四基本型とされている。
(第一人称の人称語尾<-ν>は脱落省略にて、これは、
第一不定過去の<σα>の後の場合と同じである)
人称活用語尾:過去系列(第二時制)の語尾に準ず。
単数=1・-ν 2・-ς 3・-なし(可動音<-ν>ヲトル)
複数=1・-μεν 2・-τε 3・-σι(又は-σαν)
*複数3人称のみ第二時制語尾の(-ν)と異なり、(-σι)と
なる。
・不定法・完了能動態語形:
<λελυ-> + <-κε> + <-ναι> → の形式で、
その語形は:<λελυκεναι>
を作る。<-κε>は、不定法・完了能動態と、次に挙げる
完了分詞能動態の<κ 接連尾字>と同様のものである。
<κ接連尾字>とは直説法の完了能動態の<時制接尾字:
κα>に基づき、それを他の法や分詞セクションに転用、
或いは転化援用するための活用連尾字と見るべきである。
各分詞での能動態の男性、中性では、
現在分詞:主格の<-ων>が、そのまま形容詞化(動詞的
形容詞化)の形になるように、<-οντ>に変容したものが
その分詞の連尾字となる。
不定過去分詞:時制接尾字<σα->自体を活用分詞化(動
詞的形容詞)の形になるように、現在分詞の連尾字に準じた
<ο> を省いた <-ντ> がそれである。
(受動態でも接尾字<θε>に<-ντ>がそのまま現れている。)
完了分詞:次に記す下の如くであるが、<κα> が <κω> と
なるように、その <-ω> が連尾字の役割をなす。
<καντ> が <ν> を脱落して、<α> が <ο> へ、<κοτ>
に変り、活用名詞化の役割をなす <-οτ> がその連尾字と
なる。
・完了分詞・能動態語形:
<λελυ-> + <-κ接連尾字>+<格語尾> → の形式で、
以下の如くなる。
単数・主格: 複数・主格:
----------- -----------
男性:λελυκως, λελυκοτες
女性:λελυκυια, λελυκυιαι
中性:λελυκος, λελυκοτα
など、その他すべての格語尾変化形が作られる。
分詞用<κ接連尾字>は、男性、女性、中性の三性に
分かれたものとして充てがわれている。
(+格語尾) (+格語尾) (+格語尾) (+格語尾)
主格 ↓ 属格 ↓ 与格 ↓ 対格 ↓
単数は、 ↓ ↓ ↓ ↓
男性: -ω(+ς) -οτ(+ος) -οτ(+ι) -οτ(+α)
(-κως) (-κοτος) (-κοτι) (-κοτα)
女性:-υι(+α) -υι(+ας) -υι(+α) -υι(+αν)
(-κυια) (-κυιας) (-κυια) (-κυιαν)
*女性・与格ノ語尾 <α> ニハ<下書きイオタ<ι>>ガアル
中性:-ο(+ς) -οτ(+ος) -οτ(+ι) -ο(+ς)
(-κος) (-κοτος) (-κοτι) (-κος)
複数は、
男性:-οτ(+ες) -οτ(+ων) -ο(+σι) -οτ(+ας)
(-κοτες)(-κοτων) (-κοσι) (-κοτας)
女性:-υι(+αι) -υι(+ων) -υι(+αις) -υι(+ας)
(κυιαι) (κυιων) (κυιαις) (κυιας)
中性:-οτ(+α) -οτ(+ων) -ο(+σι) -οτ(+α)
(κοτα) (κοτων) (κοσι) (κοτα)
これらの<κ接連尾字>は、男性と中性では、単数の主格と
中性の対格だけが異なるのみで、他は複数を含め、すべて
<-οτ> で、同じである。
(複数の男性、中性の与格での <-ο> は、<τ> が <σι>
の前で脱落するからである。この <-σι> 語尾は、その後に、
可動的子音の(ν)をとる場合がある。)
*女性は、単数・複数の全ての格に<-υι>を充てている。しかし
発音上、これに付すアクセント符が、曲アクセントと強アクセントの二手に
分かれ、音声に異なりをなす。
単数の主格、対格と、複数の主格が曲アクセントをとり、他は、
複数の属格を除いて、すべて強アクセントとなる。
複数属格は、後付け<格語尾>にアクセントが移るので付かない。
(男性と中性は、単、複、全ての格に強アクセント符が付く)
*分詞の格語尾は、形容詞や名詞の如く活用変化するが、完了
時制では、単数・複数の性(男・女・中)で<呼格>を除いた
4格を基本に活用変化する。
能動態格語尾活用の変化は、男性と中性では名詞の第三変
化と、女性では名詞の第一変化に準じた変化をなす。
②中態・受動態系:
完了の中・受動態系は、能動態系におけるような接尾字
(<-κ> や <-κα>)、及び -κ 接連尾字(ω,ο,οτ,υι)、
或いは他時制で見られる連尾母音(ο/ε)などの一切の介在
なしで、各法と分詞の語尾が、直接その語幹に付けられる。
・直説法・完了中態・受動態第一人称単数形:
<λελυ-> + <-μαι> → <λελυμαι>となる。
<完了語幹>の<λελυ->に現在系列(第一時制)の中態人称
語尾が直接そのまま付けられる。
この語形が第五基本型に位置づけられているのものである。
中態と受動態は全く同形である。不定過去時制のように、
受動態に他の語形を持つというものではない。
人称語尾活用は以下の如く。
単数: 複数:
1・λελυμαι 1・λελυμεθα
2・λελυσαι 2・λελυσθε
3・λελυται 3・λελυνται
*注意すべきは、完了能動態では、その人称語尾が過去系列・
第二時制のものとなっているが、中態・受動態は現在系列・
第一時制の人称語尾をとるという、異な違いをしている点
である。
・不定法・完了中態・受動態語形:
<λελυ-> + <-σθαι> → <λελυσθαι>
を作る。不定法・完了中・受動態は、直接じかに不定法の
<法語尾σθαι>が直結するのみであるから、簡易な作り
となっている。
*不定法の他の時制を含めた<法語尾>活用の使い分け系列は、
以下の如くである。
現 在 不定過去 完 了
能動態:λυειν λυσαι λελυκεναι
中 態:λυεσθαι λυσασθαι λελυσθαι
受動態:λυεσθαι λυθηναι λελυσθαι
現在と完了の中態、受動態と、不定過去の中態のみ、
<法語尾>は<-σθαι>で、まったく同じである。
(現在の <ε-> の介在は、連尾字の名残である。)
能動態は、三者とも <-ειν>、<-ι>、<-ναι>と、
異なっている。
(現在の <-ειν> は、ε+ειν の合音した形である。)
*第二不定過去の不定法は、受動態もふくめ、現在と同じ
<法語尾>をとる。
<第二不定過去語幹>+ε+ειν、 or σθαι
*ギリシャ語における不定法の用法では、主動詞の時制に
関わる時の使い分け区別はなく、直接話法的な表現をなす。
間接話法に関わる英語におけるような時制のルールには
捉われない用法である。
その点は分詞とは異なるところで、分詞は主動詞の時制
に相関的になり、同時的または先行的な一致をするよう
な用法をとっている。
不定法の場合は、
単なる過去の動作、行為に関わる表現でも、不定過去の
不定法以外に現在系列の不定法を用いたりする。
中性の冠詞を前に置き、不変化の動状名詞として用いら
れる場合には、話者、筆者、或いは文章そのものにおけ
る時のニュアンスや主語のあり方など、表現視点の置き
所により、時制に捉われない直接話法上的に自由な用い
方がなされている。
(分詞と同様、英訳する場合など、英語構文の文法に従う
かぎり、その時制ルール、或いは間接話法的な時制ルー
ルに従って訳さなければ、正しい英文にならないという
事が生じたり、直訳では意味内容が的確に現わす事が出
来ないことになる。けれども英語構文による英訳フィル
ターにより、その意味訳が明解に示されるメリットもあ
り得ると見るべきであろう。)
・完了分詞の中態・受動態語形:時制語幹<λελυ->
<λελυ-> + <格語尾> の形式で、以下のごとく、
単数・主格: 複数・主格:
----------- -----------
男性: λελυμενος, λελυμενοι
女性: λελυμενη, λελυμεναι
中性: λελυμενον, λελυμενα
など、すべての格語尾変化の語形が作られる。中態と
受動態とは同一語形である。
能動態の如き分詞用<κ接連尾字>の介在はなく、中・受
動態の不定法の如く、<時制語幹> に直接活用変化の格
語尾が付く。
この格語尾は、男性・中性では第二変化の、女性では第一
変化の規則形容詞に準ずる変化語尾をなす。
活用変化語尾は、以下の如くにて。
単数形
------
男 性 女 性 中 性
主格: -μενος -μενη -μενον
属格: -μενου -μενης -μενου
与格: -μενω -μενη -μενω
対格: -μενον -μενην -μενον
複数形
------
男 性 女 性 中 性
主格: -μενοι -μεναι -μενα
属格: -μενων -μενων -μενων
与格: -μενοις -μεναις -μενοις
対格: -μενους -μενας -μενα
*上記の分詞・格語尾は、現在分詞の中・受動態、及び
不定過去(第一アオ.)の中態の格語尾と全く同じである。
ただし、
・現在分詞は、<現在語幹>の後に連尾母音<ο>介在の
名残があり、
主格:
単・男<λυομενος>,・女<~-ομενη>,
・中<~-ομενον>
等の如くになる。
・不定過去は、<動詞語幹>の後に時制接尾字<σα>の
介在があり、
主格:
単・男<λυσαμενος>,・女<~-σαμενη>,
・中<~-σαμενον>
等の如くになる。
ここでの語幹についての[注]説明は、これにて。
-------------------------------------------
βαινω → βεβηκα (行く)
未来形は、能動態欠如で、中態=<βησομαι>にて能動の意味を
成す。
現在時制の語幹から他の諸種の時制語幹を導き出す事の予測が
不可能な動詞である。
語幹系列に関しては全く不規則である。
第二不定過去である<εβην>は、現在形単数1人称の語形を
見る限り、<ω-動詞型>であると判断できるが、過去時制での
活用形は、<μι-動詞型>という異なる語形活用をなす。
人称語尾は、通常の<ω-動詞型>に準じて規則的であるが、
語尾は全てが同じではなく、一部は異なっている。
βαπτιζω → βεβαπτικα(浸す、漬ける、沈める、浸礼する)
現在語幹は、<βαπτιζ->だが、動詞語幹は<βαπτιδ->であり、
その語尾<δ>は、時制接尾字σ,σα,κ(κα)の前では脱落して
活用の人称語尾が付いてゆく。
(-δ だけでなく、他の<-τ,-θ>も、それらの語尾では、
他の時制でも同様に脱落する)
未来:βαπτισω
不定過去:εβαπτισα
*先記の単語<δοξαζω> も動詞語幹が<-ζ>に代えて<-δ>で
終わり、脱落するから同形式の活用変化をなす。
δηλοω → δεδηλωκα(見せる、示す、言明する、明白にする、顕わす、表明する)
これは、<合音動詞>と言われる類のものである。
動詞の原形が存在するとして、語尾が<-οω>で終わる。
したがって直説法現在能動態・単数第一人称は <δηλοω>
ではなくて、合音活用化した形での <δηλω>=デェ‐ロォー
となる。
動詞語幹は、<δηλο->で、現在系列(現在形と未完了過去の
態と法と分詞の全て)においては、その人称語尾や分詞など、
その他の語尾活用をなす際には<母音合音の規則>に従って
合音する。
(ただしこの動詞のように語末<-οω>で終わる<-οω>型動詞
には不定法現在能動形にだけ、唯一の例外がある。ο+ειν
語尾との合音は、<-οιν>とはならず <-ουν>となる。
これは、規則に反した例外である。)
*この<-οω>型動詞と同様に<-αω>および<-εω>型動詞も、
合音規則に従って語尾結合の活用変化をなす。合音規則の
例外は、<-αω>型においてだけで、
その不定法現在能動形では、α+εινの結合形式で、α の
下に<下書きイオタ小<ι>>の付く<-αν=アイーン>ではなく、
ただの <-αν=アーン>となる。
[注]:未来形や第一不定過去および完了時制での時制接尾字<σ, σα, θη, κ
又は κα> が付く場合の動詞語幹末尾の母音が長音化することは、上記
の合音規則とは無関係で、母音長音化は、<時制接尾字>との関わりに
よる発音上のルールである。
διωκω → δεδιωκα(追う、迫害する、I pursue)
動詞語幹は<διωκ->で、語末の<κ->は、<κκ>の結合で合音
吸収される。
しかし、未来や不定過去形での <σ,σα> が <κ-> に加付
される場合は、二重子音<ξ>=(ks)の合音発音に変る。他に
<γ-,χ->の2つの子音字も、それ自身の発音が口蓋黙音と
なるゆえ、同じ音声の<ξ>=(ks)となる。
(例:fut.διωξω=ディオクソー, 1aor.εδιωξα=エディオクサ)
κρινω → κεκρικα(裁く、裁判する、判決する)
この動詞は典型的な流音動詞の特質を示すタイプの一つで
ある。
未来及び不定過去において、規則的な通常の活用形とは異
なると言う事由において。
例えば未来形は、未来を示す時制接尾字<σ>を動詞語幹に付す
形での通常の<未来語幹>をとらない。<σ>の代わりに <ε>
をもって、+現在形人称語尾との<合音活用>をする方法で
未来語形をつくる。
(この人称語尾は、現在時制系列での通常の第一時制のもの
とは異なる結果となる)
このような未来語形の作り方の視点おいて、母音同士の合音
規則により、<ε> と<合音化>した、その既成の現在形の
能動態及び、中、受動態の人称語尾に関しては、以下のもの
となると見なす事も可能だ。
・能 動 態: 単数=<-ω, -εις, -ει>
複数=<-ομεν, -ετε, -ουσι>
-------------------------------
・中、受動態:単 =<-ομαι, -η, -εται>
複 =<-ομεθα, -εσθε, -ονται>
[注]: 中、受の単の <η> には、その字の下に極小字の下書きの <ι> が
付いている。
(ページ文面では、単語の語頭母音の上に付く気息符(2種)や、字の
上に付すアクセント<鋭、曲、鈍の3種符>を記せないのが非常に
残念だが、ともかく、古代の音声は、抑揚と強弱の音節音律が細やか
に洗練され、非常に音調豊かな音声を表出するもので、すでにその
音声自体が芸術的要素を奏でて、劇場などで反映される進展面を可
能としていた。 今や、そういった古代音声を再現する事は不可能で
あるが、このギリシャ語音声が、その後のヨーロッパ諸語の音声傾向
の進展への源流、源泉となったと見られる。)
μαρτυρεω → μεμαρτυρηκα(証言する、証しする立証する、証明する)
μενω → μεμενηκα(残る、留まる、滞在する、住みつく)
これも流音動詞で、前記での未来形の如く、特異な活用を
なすが、この単語はまた、第一不定過去のものとして、その
特異な活用形を示すものである。
・第一不定過去:能動態・単数においては、
1人・εμεινα, 2・εμεινας, 3・εμεινε と
人称変化する。通常では、
加音<ε>+動詞語幹+<σα>+時制人称語尾(第二時制語尾)
の組形式によるから、
ε~σα, ε~σας, ε~σε の形をとるが、上記の流音動詞
では、語幹 <μεν> の末尾 <ν>には、<σ> の脱落した<α> が
付加しており、しかも語体(語幹)内にある変化が生じている。
つまり、ε が ει となり、<μειν> の字形をなして、この
場合の不定過去時制の語幹となる。これに <α> を加えて、
第一不定過去に準じた活用形式の語幹<μεινα>がつくられる。
また、以下での、
・接続法の能動態・単数1人称=<μεινω>,
・不定法の能動態=<μειναι>,
・分詞の単数・男性・主格(呼格)=<μεινας>,
などの語形が、不定過去時制の系列としてつくられる。
[注]: 流音動詞類の単語でも、必ず上記の<第一不定過去>に準ずる活用
形式をとるとはかぎらない。
ある動詞は、第二不定過去を、ある動詞は、予測しがたい語形の不
規則語幹による、第一不定過去をとるものがある。
πειραζω → πεπειρακα(誘う、試す、I tempt、attempt)
動詞語幹末尾の<ζ>は<δ>に代えて脱落し、規則的な諸時制
基本語形変化をなす。
πινω → πεπωκα(飲む、吸い込む、I drink、)
未来形は、能動欠如で、中態形<πιομαι>をとり、不定過去は、
第二アオリスト<επιον>となる。語体内変化するが、流音
動詞ではない。
πιστευω → πεπιστευκα(信頼する、信じる、委ねる)
与格の人や事物の語をともなって、或いは前置詞の
εις(επι)+対格の人、εν(επι)+与格pers.を伴って
用いる。
ποιεω → πεποιηκα(つくる、する、I make、 I do)
この動詞も<合音動詞>という類のものである。
現在系列以外の時制で、語幹語尾母音が長音化して、規則
動詞本来の語形をなすものと言える。
πιπτω → πεπτωκα(落ちる、倒れる、落下する、I fall)
未来形は、能動形欠如で、<πεσουμαι>の中態、
不定過去は、第一<επεσα>と第二<επεσον>と、二つの
アオリストを有す。
σωζω → σεσωκα(救う、救助する、I save)
動詞語幹は<σωδ(ζ)>での(ζ)の差替え脱落の規則で、
<σω->となり、各時制は、規則変化を行う。
τηρεω→ τετηρηκα(守る、防護する、見張る、番する、監視する)
この動詞も<合音動詞>という類のものである。
諸時制基本の語形は、すべて規則的である。語幹末尾の
母音<ε>もすべて長音化(η)している。
τιμαω → τετιμηκα(価をつける、値段を決める、尊ぶ、評価する、敬う、
尊重する、重んじる)
この動詞も<合音動詞>という類のものである。
現在形はαとωが合音結合して、<τιμω>となる。
未完了・能動形は、語頭加音<ε->に<τιμα+ο+ν>の
合音条件状態 <ετιμαον> の形で、α と ον が一つに
結合(合音)して<-ων>となり、<ετιμων>という第一人称
単数の語形をつくる。
・<複合語の場合>:前置詞+動詞第1基本型
περιπατεω → περιπεπατηκα(歩く、歩む、生活する、生きる、
日を過ごす、生涯を送る)
<περι+重綴りπε+πατη+接尾字κα>での形式、
動詞語幹<πατε->の末尾母音<ε>が規則どうり、
<-κα>の前で、長音 <η> となっている。
*現在活用形は、<περιπατω>であり、現在系列
(現在形、未完了過去のそれぞれの三態)において、
人称語尾活用での<合音>をなすところの、<-αω,
-εω, -οω>で終わる基本型の<合音動詞類>の
ものである。
----------------------------------------------------
b). 一つの子音でも上記 a). の規則的な<重綴り形式>を表わさない
不規則なもの:
第二完了のものでは、規則変化をせず、予測困難なものが多々ある。
(重綴りせず<ε>だけ付き、或いはなしで、接尾字<κα>をとるもの、
とらないもの、また、重綴りはするが、接尾字<κα>でなく、<κ>の
代字をなして、それに準ずるもの)
ζαω → εζηκα(生きる、I live)
ζητεω → εζητηκα(探し求める、I seek)
σταυροω → εσταυρωκα(十字架のつける、十字架刑にする、
十字架につけて殺す)
語幹語尾も長音化<ο→ ω>し、他諸時制すべて規則的で
あるが、
完了での正規重綴り(σε)の形をとっていない。
φερω → ενηνοχα(運ぶ、担う、負う、支える、持って行く、携行する、
持ち出す、連れてゆく、生じる、生み出す)
諸時制語幹すべて不規則で語体変化のものばかり、
未来:οισω, 第一アオリ.:ηνεγκα, 或いは
第二アオリ.:ηνεγκον,
完了中・受動態:ενηνεγμαι,
不定過去受動態:ηνεχθην
γινομαι → γεγονα(~になる、~である、I become、I am、~が起こる、
現れる、生じる、存在するに至る)
語形語尾<-μαι>でおわる<-μαι動詞>に属するもので、
能動形欠如動詞である。しかし、完了過去時制では、前記
する如く能動形の形をとり、そして、中態・受動態の完了
語形<γεγενημαι>も見られる。
両者ともに語頭の重綴り(γε)を採っているが、語体内
変化をなしている。その中・受動態に関しては、あたかも
規則的語形の姿を示しているかのごとくである。
δεχομαι → 能動態欠如 (δεδεγμαι= 中・受動態、受ける、受け入れる、
受け取る、歓待する)
これも<-μαι動詞>のものであり、現在時制以下、すべて
において能動形を欠いている。
未来:δεξομαι
不定過去1aor.: εδεξαμην
不定過去受動態:εδεχθην
*完了中・受動態<δεδεγμαι>の<-γμαι>の<γ>は、動詞語幹
<δεχ->の χ の字音転訛の γ である。
こういった字音変化は、度々見られるものであるが、特に
<κ,γ,χ> の3つの同系子音グループ間で、発音状況に
応じて、相互の交換変化を可能としている。
[注]: <κ,γ,χ> の3つの同系子音は、口蓋により発音されるゆえ
<口蓋黙音>とも言われる。これらの子音には、動詞の時制活用
の語形の成立に関わる、さらに重要な規則が結出している。
ここで、他の子音字グループ <π,β,φ> (これは唇での発音で、
<唇音黙音>)などと一緒にかかる規則を理解すべきと思う。
先ず前提として念頭におくべきことは、<動詞語幹>の初めと
終わり(末尾)の子音或いは、母音に関して、何らかの音韻変化の
ルールの現われが起こりうるという現状である。
(ここでの完了形の規則、不規則語形の成立も、この現れのルールに
関わるかどうかでの判別をも少なからず考慮していると見られる。)
・動詞語幹の末尾が<κ,γ,χ>のいずれかの子音である場合:
未来形の時制接尾字<σ>や不定過去の接尾字 <σα> の <σ> がその
末尾子音に接合されると、発音上、<σ> と一緒になって、二重子音
(ks)となり、その発音に子音字 <ξ> を当てる事で、それら3つの
子音は、<ξ>(ks)の字音へと変換されるという規則が成立するもの
となる。
例1として:動詞<αρχω>では、語幹が<αρχ->で、
未来形・能動態は、<αρξω>
第一不定過去・能動態は、<ηρξα>となる。
例2として:動詞<αγω>では、未来時制のみで、不定過去時制は、
この規則変化に従っていない。
未来形・能動態は、<αξω>、
不定過去は、第二不定のもの <ηγαγον> と、
不規則な第一の <ηχα> の2つがある。
ここでは、<ξ>(ks)ルールは見られない。
*したがって、該当する動詞によっては、必ずしも
両時制すべてが規則どうりになるとは限らない。
他に <εχω> という語も未来形のみ、そのルールに
則している。
*他にこの規則に準ずるものに ανοιγω, διωκω, διδασκω,
δεικνυω(語幹がδεικにより), δοκεω(語幹がδοκにより)など、
未来、不定過去、両者ともに準じている。
<διδασκ->の末尾<-σκ>のσは、κ+σの接合時に<κ>に吸収されて、
<διδαξω>の未来をつくる。
不定過去も同様で、<εδιδαξα>となる。しかし、完了時制では、
このルールには準じないで、先に示した子音グループ内(κ,γ,χ)での
変化をなす。
完了能動態:<δεδιδαχα>、κ (σκ) が <χ> へと、
完了中・受動態:<δεδιδαγμαι>、κ(σκ)が <γ> へ
・動詞語幹の末尾が<π,β,φ>のいずれかの子音である場合:
この子音グループもそれらの時制接尾字との結合で、発音上、<σ> と
一緒になって、二重子音(ps)となり、その発音に子音字 <ψ> が
当てられる。
よって<ψ>(ps)変換のルール規則が出来ているわけだ。
例1として:動詞<βλεπω>では、語幹<βλεπ->で、
未来・能動態<βλεψω>をつくり、
第一不定・能動態は、<εβλεψα>をなす。
例2として:動詞<λαμβανω>では、動詞語幹が<λαβ>で、
不規則変化動詞を示すものであるが、
未来形だけ能動形欠如で、中態の語形として、
<α> → <η>の語幹語形の変化をしながら、<ψ>変換し、
<λημψομαι>をつくる。しかし、
完了の能動形では、<α> が長母音の <η> に変り、
不規則な語形変化だが、
<ειληφα> となり、 そして、さらに
不定過去受動態では、より現在語幹形に戻った形で、
<ελημφθην> と、共に
グループ内変換(β→ φ)をなす。しかし、
完了の中態形では、<ειλημμαι>と、β,φの
グループ変換を留めないで、φ の脱落即 <μ> の
代替で語形をなす。
*この動詞の不定過去は、第二アオリストだけで、
第一アオ.を有しない。<ελαβον>
例3として:動詞<γραφω>は、動詞語幹<γραφ->で、
未来・能動態<γραψω>をつくり、
第一不定・能動態は、<εγραψα>をなす。
だが、
完了形では、第二完了として、能動態
<γεγραφα>と、中・受動態形として、
<γεγραμμαι>を表わす。さらに、
動詞<γραφω>は、その第二不定の受動態の基本型
<εγραφην>をつくる。
*不定過去の受動態では、例3の動詞のように、規則的な
第一不定過去受動態の時制接尾字<-θη>での <θ> を
持たないものとしての<第二不定過去受動態>のものが
ある。
これの人称語尾活用の変化は、<θ>を付けずに、その基本
形(第一人称単数形)から始まって、
単数:<1・-ην, 2・-ης, 3・-η>
複数:
<1-ημεν, 2-ητε, 3-ησαν>となる。
*他に第二不定過去受動形をとる動詞には
<επιστρεφω> → <επεστραφην>
<χαιρω> → <εχαρην>
などが見られる。
*上に挙げた二つの子音グループ<π,β,φ><κ,γ,χ>には、さらに
<不定過去・受動態>にだけ特定されたそれぞれのグループ内変換が、
ルール的に生じる。つぎの如く。
受動態時制接尾字<θη>の前にくる、その<動詞語幹>末尾が、
・<-π> 又は <-β> の時は、 <-φ> に変る:
例:<πεμπω> → 受動態<επεμφθην>
<λειπω> → 受動態<ελειφθην>
不規則な動詞の例として、
<λαμβανω> その語幹 <λαβ->又は<λαμβ->から、
→ 受動態<ελημφθην>
・<-κ>又は<-γ>の時は、<-χ>に変る:
例:<διωκω> → 受動態<εδιωχθην>
<αγω> → 受動態<ηχθην>
<ανοιγω>→ 受動態<ηνοιχθην>
特に不規則動詞の例としては、
<φερω> その不定過去語幹<νεγ->(その能動形は
<ηνεγκα>)により、→ 受動態<ηνεχθην>
*不定過去受動態には、上記の子音グループ以外にもう一つ、三つ目の
子音グループ<τ,δ,θ>(舌で発声されるゆえ、舌音黙音と言われる)
による変換適用が起こる。
語幹末尾のこれらの子音に、不定過去受動態を示す<時制接尾字>:
<θη>が結合適用される時、その<-θ>の前では、語幹尾のそれら
の子音では、
・<-τ,-δ,-θ>が、皆<σ>に変る:
例1:<πειθω> → 動詞語幹<πειθ->で、
・不定過去・受動態:<επεισθην>
<θ>が<σ>に変り、<-θη>付き、人称語尾変化の活用をなす。
(この<σ>に変るルール性は、しばしば完了時制の中・受動態
でも生じている傾向が見られる。)重綴り<πε->の θ が
<σ> に変り、
・完了・中/受動態:<πειθω> → <πεπεισμαι> へと、
例2:<βαπτιζω> → 動詞語幹 <βαπτιδ-> で、
*ζ が δ どなるのは、下にて説明。
・不定過去・受動態:<εβαπτισθην>
・完了・中/受動態: <βεβαπτισμαι>
*この<τ,δ,θ>子音グループには、他の未来や不定過去能動態並びに
中態の時制、及び完了の能動態では、その時制接尾字:<σ,σα,κα>の
前で、それら<τ,δ,θ>は、みな脱落するルールのあることを忘れては
ならない。
特に<δ>は、語幹末尾の舌音として、<ζ>に代置する形で代替脱落する
ので、<-ζω> で終わる動詞は、特に要注意である。
・<-τ,-δ,-θ>が脱落する場合:
例1:<πειθω> → 動詞語幹<πειθ->で、
・未来形:<πεισω>
<θ>が脱落して、未来時制接尾字<σ>が付加される。
・不定過去・能動態:<επεισα>
ただし、
・完了能動態は、この動詞では例外を示し、語体変化をなして、
<-θ>を留め、:<πεποιθα> 、θ は<-κ>の代置をなす。
・完了中・受動態:先に挙げた、θ<σ>に変るルールにて、
<πεπεισμαι>
*不定過去・受動態は、先に挙げた、θ<σ>に変るルールに
準じている。(<επεισθην>)
例2:<βαπτιζω> → 動詞語幹 <βαπτιδ-> で、
・未来形:<βαπτισω>
・不定過去・能動態:<εβαπτισα>
・完了・能動態:<βεβαπτικα>
語尾が<-ζω>で終わる動詞の<動詞語幹>は、<βαπτιζ->
ではなくて、<βαπτιδ-> と見なされる。
<-ζω> で終わる動詞の -ζ は <δ> に代替するルール性が
あり、そして その語幹尾の <δ> 脱落の規則が適用される。
しかし、
完了時制の中・受動態においては、不定過去・受動態と同様に、
<δ> 脱落ではなく、先に述べた <σ> に変るルールが
行われる。
・完了・中、受動態: <βαπτιζω> → <βεβαπτισμαι>
・不定過去・受動態: <βαπτιζω> → <εβαπτισθην>
*こういった<脱落と変換>を旨とする、<-ζω>語尾で終わる
動詞は、辞書上でも結構多く見られうるが、その全ての単語
が上のルールに当て嵌まっているとは限らない。一例として、
<σωζω> → σωσω, εσωσα, σεσωκα の脱落は、
ルールに従っているが、
σεσωμαι, εσωθην は、<σ> への変換は見られない。
例3:<πιπτω>→ この動詞は不規則で<動詞語幹>は<πετ->で、
(現在語幹<πιπτ->の形とは異なる。)
・未来形:<πεσουμαι>、<-τ>脱落にて、
能動形欠如で、中態形である。
・不定過去:<επεσα> =第1アオリスト能動態、<-τ>脱落にて、
<επεσον> =第2アオリ.能動態、<-τ>脱落にて、
・完了形は不規則な語形で、<-τ>脱落はなく、むしろ現在の
基本型に戻る傾向を示している。これは完了時制の基層的
特性であろう。
能 動 態:<πεπτωκα> (第一人称単数)
中・受動態:<πεπτωμαι> (第一人称単数)
・不定過去・受動態は、<-τ> が <-σ> に変り、
<θη>+語尾<ν>にて、
<επεσθην>となる。
<καλυπτω>→ 動詞語幹 <καλυπτ-> で、これは、
現在時制語幹と同形である。
・未来形: <καλυψω>=能動態、<-τ> 脱落にて、
・不定過去:<εκαλυψα>=第1aor.能動態、<-τ> 脱落にて、
<εκαλυψαμην> 〃 中 態、<-τ> 脱落にて、
*<τ> が脱落して、前の <π> に <σ> が付いて、
二重子音<ψ>(ps)に変るルールがきっかりと現れている。
・不定過去・受動態は、
<εκαλυφθην>
*この受動形は、第一不定過去として規則的であるが、<τ>が
<σ> に変るルールに準じないで、<τ> 脱落のルールに従う。
しかも、それの前の< π が φ に変るルール>が行われ
ている。
*<-τω>の語尾で終わる動詞は、先に記した<-ζω>の動詞
に比べたら、その複合動詞を含めても、はるかに少ない
動詞類である。しかも、
その語形特徴がはっきりしていて、必ずと言っていいほど、
<-τω> の前に <π> を伴い、<-πτω> の形をなしている。
したがって、不定過去・受動態は、π → φに変り、
<-φθην>の基本型で終わる。
しかし、この<-πτω> 動詞類の中には、第二不定過去
受動態をとるものがあるので、その一例として、次に
掲げる動詞から、θη の <θ> が脱落する第二不定過去
の受動態の語形を示しておく。
<κοπτω>→ 動詞語幹 <κοπτ-> で、τ 脱落の、πσ=ψ(ps)
変換のルールにより、
・未 来 形:<κοψομαι>、これは、能動形欠如にて、
中態形である。
・不定過去:<εκοψα> = 第1アオリスト能動形
<εκοψαμην> = 〃 中態形
・この動詞は第二不定過去・受動態をとる。
<εκοπην>、<θ>なしの形で、
*<τ> 脱落に準じているが、規則的な第一不定のように、
<π が φ>に変らないで、その変換ルールに反する
ものである。
ここでの[注]説明は、以上にて。
--------------------------------------------
( 再び b). 項目の続き、種々の不規則な完了形の列挙に戻る )
διδασκω → δεδιδαχα(教える、手解きする、教示する教旨を指図する)
各時制とも規則変化に準じたもので、完了形は重綴りを
とるが、
接尾字<-κα>にならず、<σ>が脱落し、<-χα>の接尾となる。
これも <κ,γ,χ> の子音グループ間での変換と見られる。
πορευομαι → 能動形欠如動詞(πεπορευμαι= 中・受動態、行く、赴く、
去って行く、旅をする、旅路を行く、世を去る、逝くなど)
σπειρω → 能動形欠如 (εσπαρμαι= 中・〃、種をまく、蒔く、
種まきをする)
語幹が<ρ>で終わる<流音動詞>である。ゆえに未来形と
不定過去形は、通常の規則的なものとならない。
κηρυσσω → κεκηρυχα(宣言する、布告する、宣教する、言い広める、
宣伝する、広く告げ知らす)
πειθω → πεποιθα(納得させる、説得する、信頼する)
これは第二完了形、能動、受動態とで色々意味が異なり、
使い分けられている。
πεμπω→ πεπομφα(遣わす、送る、よこす、やる)
語幹末尾<π>は、<ψ>や<φ>に合音的に変化する。
(語幹尾が、π,β,φの子音字では、それにつづく
<σ,(κ)>などと合音して<ψ(φ)>になる。)
λειπω → λελοιπα(vt.残す、を残して去る、pass.:取り残される、欠ける、
不足する、/ vi.遅れて来る、欠けている、残されている、
不足している)
λεγω → ειρηκα(言う、I say、語る、告げる、話す、述べる、言わんとする、
意味する、/称する、名づける、呼ぶ、呼びかける、唱える、)
不規則動詞(fut:<ερω>, 2nd.aor:<ειπον> or <ειπα>,
aor.pass:<ερρεθην> or <ερρηθην>,
pf.mid & pass:<ειρημαι>)
λαμβανω → ειληφα( 第二完了、取る、取り出す、つかむ、得る、捕まえる、
/ 受け取る、受ける、頂く、身に受ける、受け入れる、)
動詞語幹が予測できない不規則動詞である。未来は、能動形
欠如にて。
凡そ現在基本形から推測して、現在語幹の語尾が<ν>で終わ
るけれども、流音動詞ではないものは、未来の通常の規則的
な活用語形をなす場合の時制接尾字<σ>を、そのまま語幹末
尾の子音字<ν>に付加したとしても、ただ子音が二つ並び重
なっただけで、何ら結合をなした形には至っていない。
したがって、現在語幹は、<λαμβαν->であるが、動詞語幹は、
別の形であろうと判断され得るものとなる。そうなると、
各時制の語形を辞書で調べ、それらから各時制の動詞語幹を
把捉する以外に方法がない。
この動詞の場合は、<λαμβ->が動詞語幹であるが、各時制の
間で不規則にその語幹自体が語体内変化をなして、それぞれ
の基本型の語形を作るものとなることが判ってくる。
未来形:<λημψομαι>=<α>が<η>に変化して、<β>と<σ>が
通常どうり<ψ>(ps)になり、中態の人称
語尾での活用変化をなす。
不定過去:<ελαβον>=第二アオリストで、第一の<σα>をとって、
<ελαμψα>とはならない。語幹内は<μ>が
脱落変化して、<λαβ>で、第二アオ.の人称
活用変化をなす。
(能動&中態が第二アオリストの形を取る。)
不定過去受動態:<ελημφθην>=語幹の<α>は幹内変化して
<η>に変り、<β>は<π,β,φ>のグループ
内変換して<φ>に、
受動接尾字<θη>は、通常の規則的第一アオ.
と全く同じくして、人称語尾活用をなす。
完了能動態:<ειληφα>=<α>の<η>への変化、<β>が<φ>に
変るのは、他時制の基本型と同じであるが、
<μ>の語幹内脱落しているのを見る。
さらに、完了の規則的接尾字<κα>を発音上、
付加できない子音で語幹が終わるものの内
で、<κ,γ,χ>や<π,β,φ>のグループは、
グループ内変換をして、それに<α>を付け
るとで、<κα>の形に準じるとしている。
こういった形のものは第二完了のものとさ
れている。しかし、ここで
もっと不解なのは、語頭に加付される<ε>
付き重綴りの成るや否やの事柄である。
通常の完了形式で、単純に、<λεληφα>
或いは<λελαμφα>、又は<λελημφα>に、
何故ならないのかと、、、語頭に加された
<ει>とは、完了重綴り規定のあり方からは、
まったく異例な例外ものである。(同じ例は、
<λεγω>の完了時制でも見られるが)
ただ動詞語幹が母音で始まるものは、二重
母音も含めて、長音(η)とするのルールに、
<ει>が<η>に代る形で、かすかに影を投じ
ているのかと見られるだけで、実に不可解
な語形作りという他ない。
(おそらく<λ>でもって始まる他の全ての
用語との類比関係から採られた、良識ある
区別立ての処置であったと見られようか。)
完了中・受動態:<ειλημμαι>=語幹の<α>の<η>への変換は、
能動態と同じであるが、続く<μ>の脱落は
なく、中・受動態の人称語尾との結び付き
を良くしている。ここでは能動態において
<β>が<φ>に代り、それに<α>が付いて<κα>
の代用となしているので、<κα>を除いた
意味で、<β → φ>は外され、直接語幹に
第一時制の中態人称語尾(-μαι=1人称単)
が付く。しかし、2人称語尾<-σαι>3人称
語尾<-ται>などの活用付けでは、<φ>が
とどまることも、また<β>が<π>に変って
<φσαι>,<πται>ともなる動詞が他にある
ことも留意すべきである。
c.) 一つ子音でも、φ,θ,χ で始まる語幹は、φ が π に、θ → τ に、
χ → κ に代えて、 <ε>が付され、重綴りするもの。
φιλεω → πεφιληκα ( 愛する、I love、好む、好きになる、好意を抱く、/
口づけする)
<φ を π> に代えて、重綴りするタイプの完了時制。
現在系列時制での人称活用変化で、語尾が合音する<-εω>
タイプで終わる<合音動詞>のものである。
<φιλεω>は、合音前の原語形である。
(pres.:<φιλω>, fut.:<φιλησω>, impf.:<εφιλουν>,
1st.aor.:<εφιλησα>, aor.pass:<εφιληθην>,
pf.mid&pass:<πεφιλημαι>)
φανεροω → πεφανερωκα( 明らかにする、あらわにする、現わす、さらす、
見えるようにする、知られるようにする)
<φ を π> に代えて、重綴りするタイプの完了時制。
この動詞も<-οω>タイプの<合音動詞>のものである。
<φανεροω>は、活用合音前の原語形である。
(pres.:<φανερω>,impf.:<εφανερουν>)
θεραπευω → τεθεραπευκα(いやす、治療する、手当てする、/ 世話する、
奉仕する、仕える)
θ → τ に代えて、重綴りするタイプの完了時制。
θνησκω → τεθνηκα (=perf:死んでいる、pres.:死につつある、
死にかけている、死のうとしている)
<θ → τ> に代えて、重綴りするタイプの完了時制。
この動詞は、完了、大完了時制でだけ用いられている。
同じ意味に類似する同類語には:
<νεκρος>=adj.死んだ、死せる、死んでいる、
<θανατος>=nou.死、生命を失くした状態、
<αποθνησκω>=ver.死ぬ、死に至る、死なんとしている、
死にかけている、
(現在時制、不定過去時制で通常使用される)
他に、
<νεκρω>=ver., <θανατω>=ver., <νεκρωσις>=nou.
θαυμαζω → τεθαυμακα(vi.: 驚く、 驚き恐れる、驚嘆する、いぶかる、
あやしむ、不思議に思う、感嘆する =pre.act.,
fut.pass.,aor.pass.において /
vt.:~に驚く、をいぶかる、を不思議に思う、に驚嘆する、
に感心する)
<θ → τ> に代えて、重綴りするタイプの完了時制。
χαιρω → κεχαρηκα(喜ぶ、<χαρα>と言う同族名詞を対格にして、
大いに喜ぶ、/ 通常<あいさつ用語として命令法で一般的
に用いる:
<χαιρε>や<χαιρετε>=こんにちわ、ごきげんよう、やあ、
ようこそ、good luck、さよなら) また、手紙文冒頭の
簡略的表現で用いられている。
完了形では実際的実用なし。事例表示のみにて、
<χ → κ> に代えて、重綴りするタイプ。
(未来:<χαρησομαι>, 未完了:<εχαιρον>,
第二アオリスト受動:<εχαρην> ← 1st.aor.の<θ>が脱落)
χαλαω → κεχαληκα(緩める、放す、放免する、去らせる / 緩め下げる、
or おろす)
<χ → κ> に代えて、重綴りするタイプの完了時制。
この動詞は<-αω>で終わるタイプの合音動詞である。
したがって、<χαλαω>は、活用合音前の原語形である。
(pres: <χαλω>, fut: <χαλασω>,
1st.aor: <εχαλασα>,
aor.pass: <εχαλασθην> )
χαριτοω → κεχαρι(τω)κα(恵みを授ける、)
<χ → κ> に代えて、重綴りするタイプの完了時制。
この動詞は<-οω>で終わるタイプの合音動詞である。
したがって、<χαριτοω>は、活用合音前の原語形である。
(pres.: <χαριτω>, fut: <χαριτωσω>
1st.aor: <εχαριτωσα>,
pf.mid & pass: <κεχαριτωμαι>)
d.) 二つの子音で語幹が始まる場合:
<●ε●~κα>の重綴り形式をとるものと、そうでなく、過去時制の加音
の如くに、ただ語頭に<ε>を付けて、重綴りと見なし立てるものとがある。
・<●ε●~κα>の重綴り形式をとるもの
πληροω → πεπληρωκα(満たす、溢れさす、成就する、遂げる)
・語頭に<ε>だけで:(接尾字<κα>の付くもの、付かないもの)
γινωσκω → εγνωκα(知る、判る、理解するなど)
語幹が <γνω->で、その2子音により、
<ε>のみ語頭に付して、重綴りとし、接尾字<κα>をとる。
・頭子音字の<ε>付き重綴り:(接尾字<κα>でなく、<α>のみ)
γραφω → γεγραφα(書く、記す、筆記する)
動詞語幹が2子音字<γρ->で始まっているが、重綴りの
<γε->が語頭に来ている。しかし、これは、
第二完了形とされている。(語幹内変化のゆえ)
中、受動形:<γεγραμμαι>=単数1人称
<γεγραμσαι> 〃 2 〃
<γεγραπται> 〃 3 〃
*3人称単の<-πται>の<π>は、<π,β,φ>の子音グループ
で語幹末尾が終わるものにおける、語体内変換である。
▼ 前置詞+の合成、つまり複合語の場合で、上記した基本法則上以外ではあるが、
きわめて関連した変化などをなすものとして、その若干例を示す。
απελπιζω → αφηλπικα(望みをすてる、見限ってしまう、絶望する)
<απο+ελπιζω>の合成で、前置詞<απο->の<ο>が
脱落して、現在基本型を成立させている動詞である。
(前置詞の末尾母音の脱落ルール、後続する母音に前では、
脱落する。)
完了能動態は、例の<π,β,φ>子音グループでの<グループ
内変換>の発音法則(π、β ⇔ φ)に準じて、<π>が <φ> に
変わる。<απε->が<αφη->へと、
重綴り加音(ε)はなされず、元の動詞語幹 <ελπιδ-(ζ)>の
語頭が母音で始まるから、長母音 <-η> とすることのルール
に従って、<αφη->の形となる。
時制接尾字<-κα>は、語尾の<δ>脱落のルールをもって
付加されている。
απαγω → αφηχα(αφηγμαι 中、受動態 = 導き去る、引いて行く)
<απο+αγω>での複合動詞で、前置詞<απο->の<ο>脱落
での結合にて成立している。
<αφη->の形は、前記の動詞と同じ変換様式にて、
<-χα>は、時制接尾字<-κα>の代替であるが、語幹語尾
<-γ> が <-χ> に変るのは、<κ,γ,χ>の子音グループの
<グループ内変換>に拠るものである。
ανιστημι → ανεστηκα( vt. 起す、 起き上がらせる、甦らせる、
立たせる、立てる=fut と 1st.aor.においてのみ /
vi. 起きる、 立ち上がる、起き上がる、よみがえる=mid.の
各時制 と 2nd.aor.act.で)
<ανα+ιστημι>での合成の複合動詞である。前置詞の
<-α>の脱落を見る。動詞語頭母音字の前ゆえのルールにより。
完了形も同様に<+εστηκα>の母音字のゆえに脱落。
(fut:<αναστησω>, 1st.aor:<ανεστησα>,
2nd.aor:<ανεστην>, pf.mid & pass:<ανεσταμαι>,
aor.pass:<ανεσταθην>)
αναβλεπω → αναβεβλεφα(見上げる、顔を上げる、仰ぐ、視力を得る)
別系同義語<οραω>からの<ανεωρακα>の方が、他の過去
時制の用語と共に通常よく用いられている。
(-βλεπωは、現在時制、未完了形が、一般的である。)
<ανα+βλεπω>の現在形は、前置詞の末尾<-α>は、後続
の語頭が子音(この場合は<β>)だから脱落せず、そのままで
合成する。
これの完了・能動態は、重綴り<-βε->をなし、語幹末の
<π>が<φ>に変り、接尾字<-κα>の代わりに<-φα>となる。
別系の完了形<ανεωρακα>は、前置詞 <ανα-> の末尾
<-α> がルールに従って脱落するが、重綴り加音<ε>は
とらないで、語幹の<ορα->の<ο>が長音化して<ω>となり、
他時制の加音<ε>のように、<ε>がその<-ωρα->の前に付く。
接尾字<-κα>は、普通どうりに付くが、
語幹末尾が母音で終わる場合、その母音は、完了能動態の
接尾字の<-κ> の前では、長音(η)となるのルールに反して、
その末尾<α>が<η>に変らない。そのまま形式的に <α> が
長音化するかの如く、<-κα>を付ける。しかし、
実際的な発音上では、3音節目(後から数えて)の<ω>に
強アクセントが留まっているので、単音的な<α>音となる。
この完了・能動態は、<ανεορακα>と、<ο>が <ω>に
長音化しない形でも活用化されている。
αναβαινω → αναβεβηκα(上がる、登る、成長する、伸びる、思い浮かぶ、
思い立つ、 I go up,)
<ανα+βαινω>で、前置詞語尾の脱落なしの合成。
動詞が不規則語幹であるゆえ、予測出来ないものである。
その動詞語幹<βη->から、
未 来 形:<βησομαι> =中態形で、能動形欠如。
不定過去:<εβην> =第二アオリスト
・<-μι動詞>からのもの:
αναδιδωμι → αναδεδωκα(手渡す、渡す、引き渡す)
<ανα+διδωμι>で、変化無しのそのまま合成から。
αποδιδωμι → αποδεδωκα(返す、回復する、借りを返す、支払う、
報いる、果す、他に弁明する、釈明する、申し開きする、
mid形では、売り渡すの意味がある)
<απο+διδωμι>で、変化無しのそのまま合成から。
επιτιθημι → επιτεθεικα(置く、すえる、I put or lay upon、)
<επι+τιθημι>で、そのまま変化無しの合成から。
・<-μαι動詞>からのもの:
απερχομαι → απεληλυθα(去る、離れ行く、行ってしまう)
<απο+ρχομαι>で、αποの<ο>が脱落結合して、
<απε->発音に代わるものなど、)
*前置詞プラスの動詞による複合語は、とにかく非常に多い。もとの一つの動詞が、
二つ以上の前置詞と結合するものがかなり沢山見られるといった言語事情のもの
だからである。
以上にて、古代世界語コイネー・ギリシャ語の動詞に係わる完了時制から捉え、
垣間見たところの、一つの古代言語世界の何たるかの知見である。
............/////////////////////////////////////............
●古代ギリシャ語、その繁栄を謳歌したアテナイの帝国的都市国家時代
(BC5世紀~4半世紀頃)に、現在では<古典ギリシャ語>と言われ
ている、そのかっての<アッティカ語>が、その当時の優れた文明の
影響勢いにより、グレコ・ローマン時代には、世界語の地位を占める
に至った。旧約聖書のギリシャ語訳・LXX・70人訳書と、使徒らによる
新約聖書も、この世界語、つまり、世界に共通して、読み書き話す事
が通じる言語という意味で、この共通語(コイネーΚοινη)で記す
ことができたわけである。このコイネー語は、古典ギリシャ語からは、
かなり発展的に、個々の言葉、単語の語形面や、文法的な構成要素面
において、あるいは意味、概念の増加、減失、他語外来のギリシャ言
語化等々の進展と、変容、簡素化の時代を経て大成をなしたところの
古代の世界語であった。
●今さら<古代世界語コイネー>を習っても、知っても、なんの得にも
なりしません! と思われるかもしれませんが、、、、それでもこの
<世界語>が有する世界の片鱗をちょっぴり垣間見ることも良かろう
かと思う。古代語の研究を志す、そんな若き学徒がいるような時代で
もなさそうだけれども。。
--------------------------------------------------------------
【現ページトップへ】
【戻る】