パウロの手紙:ギリシャ語原文解析
【パウロのエペソ人への手紙】での和訳文
字義直訳ではないが、原文の文法解析により、それに近いかたちでの相応なる和文の整いを
なしたものとして、第1章の3節から14節までを、その一例として試訳する。
ここで注意すべき事は、1-2節の最初のパラグラフの後、3節からの次の段落文言が、ギリ
シャ語原文では、14節でようやく終止符ピリオド<.>が打たれて、そのひとパラグラフが終
わる文述形式になっていることである。
その間は、コンマ<,>及び、文行線の上の側のドット<.>(=セミコロンに相当)にて、一応
区分的に継続される様式になっている点に注意。
これは、パウロが<口述式の手紙文>として、その発言音声どうりに、つまりあえて生の声が
伝わるような具合に、記述せしめていると判断されるものであり、現代的に云えば、誤りのな
い、正しい口述が、そのまま音声録音されたようなものに相当すると云える。
(聖書上の<章と節>での割り振りは、便宜上付けられたものであるが、これによって、非常
に聖書の言葉理解の多様性が広がり、読者の利便性も良くなり、聖書学問が飛躍的に進歩して
いったと見られる。)
【以下、本文】:
3:ほめ讃えられるべし、我らの主イエスキリストの父なる | 3) Ευλογητος ο Θεος και Πατηρ του Κυριου
神、キリストにおいて、その上なる天における霊の諸々 | ημων 'Ιησου Χριστου, ο ευλογησας ημας
の祝福をもって、我々を祝福された方、 | εν παση ευλογια πνευματικη εν τοις
| επουρανιοις εν Χριστω,
4:あたかも世界の創基される前に、キリストにおいて | 4) καθως εξελεξατο ημας εν αυτω προ
我々をお選び下さったかのごとく、その御前にきよく、 | καταβολης κοσμου, ειναι ημας αγιους
傷のないものであるようにと、 | και αμωμους κατενωπιον αυτου,
|
[注:創基とは、<基の置かれること>の意] <καθως>は副詞で、”丁度~の如く(just as) →
| まさに~の如く”の意味。
5:ご自身の御旨の善しとするによりて、イエス・キリスト | 5) εν αγαπη προορισας ημας εις υιοθεσιαν
を通して、子たる身分を得させるために我々を、愛の | δια 'Ιησου Χριστου εις αυτον, κατα την
うちに、彼のもとへとあらかじめ定め置いて下さり、 | ευδοκιαν του θεληματος αυτου,
|
6,7:その<愛されたる御子>において、我々を惜しみなく | 6) εις επαινον δοξης της χαριτος αυτου, ης
お恵み下さった、その恵みの栄光の誉れのもとに、 | εχαριτωσεν ημας εν τω 'Ηγαπημενω,
我々は、その方(=御子)にあって、彼の血による贖い、 | 7) εν ω εχομεν την απολυτρωσιν δια του
(即ち)罪過の赦しを得ているのであり、 αιματος αυτου, την αφεσιν των παραπτω-
| ματων,
|
8:その御子の恵みの豊かさにより、神はその恵みをあら | 8) κατα το πλουτος της χαριτος αυτου, ης
ゆる知恵と悟りとにおいて、我々のうちに増し溢れさ | επερισσευσεν εις ημας εν παση σοφια
せたまい、 | και φρονησει γνωρισας ημιν το μυστη-
| ριον του θεληματος αυτου,
9:(且つ)ご自身の善意によりて、その御旨の奥義を我々に | 9) κατα την ευδοκιαν αυτου, ην προεθετο
知らしめて下さいましたが、それは、時の満ちるに至る | εν αυτω εις οικονομιαν του πληρωματος
御掌配の下に、彼にあってあらかじめお定めになった | των καιρων,
もので、 |
|
10:キリストにおいてすべてのものを、(即ち)天における | 10) ανακεφαλαιωσασθαι τα παντα εν τω Χριστω,
ものと、地にあるものとを、すべて彼のうちに一つに | τα επι τοις ουρανοις και τα επι της γης'
帰属せしめられ(再創現なされ)るというものであり、 εν αυτω,
|
(*帰一応顕とも・・・≠<因縁生起>という
自然性そのもののニュアンスとは異なる。むしろ |
正反対のニュアンスとも言える。) |
|
11:そしてその方において我々も、神の本意本望のご意図に | 11) εν ω και εκληρωθημεν προορισθεντες κατα
基づいて、すべてのことを動括引導せられる方のご計画 | προθεσιν του τα παντα ενεργουντος κατα
に従って、あらかじめ定められ、召し出だされたので | την βουλην του θεληματος αυτου,
あり、 |
12:まず先にキリストにおいて望みを抱いていた我々が、 | 12) εις το ειναι ημας εις επαινον δοξης αυτου
その方の栄光の誉れへとならんがために、 | τους προηλπικοτας εν τω Χριστω'
・・・・・・・・・・・・・・・・ |
(栄光の誉れのうちにあるようにと、)
|
13:そしてあなた方も彼において、真理の言葉、(すなわち)| 13) εν ω και υμεις, ακουσαντες τον λογον της
あなた方への救いの福音を聞いて、かつ彼を信じたこと | αληθειας, το ευαγγελιον της σωτηριας υμων,
により、約束(に基くところ)の聖霊にて、証印を押さ | εν ω και πιστευσαντες εσφραγισθητε τω
れたものとされ、 | Πνευματι της επαγγελιας τω Αγιω,
|
14:それは、我々の与り得受している贖いに対する、その | 14) ος εστιν αρραβων της κληρονομιας ημων εις
受け継ぐべき嗣業への保証であり、キリストの栄光の | απολυτρωσιν της περιποιησεως, εις
誉れに基づくものである。 | επαινον της δοξης αυτου.
|
(この14節は、意味解釈が難しく、如何なる諸言語に ===== ======= ======= =====
おいても訳文しにくい困難さ、意訳へのわだかまり |
が残る。 | この3~14節のパラグラフで、その訳文への重要な決め
| 手となるもので、注目すべきは、二つの前置詞、<εις>と
要するに、前節13の句を受けたこの文言を説略 | <κατα>の用法での、文言内容、意味理解の正しい捉え
すれば、 | 方である。
|・<εις>:常に対格の語を伴って、意味は、伴う<対格語>により
“ 聖霊(の証印)は、贖いにより最大限に受ける事の | 多様化するが、主に7つほどの使い分け意味がある。
できる、聖霊による<限りない恵みの継承実現> | ①~内へ、下へ②~まで、~までずっと、~間中
に至るまでの、その代償的な部分保証、一時保証 | ③~まで、~に(程度や限度での)④~による(手段)
でもある。” | ⑤に対して、⑥について、⑦のために、~するために
| (εις +το inf.<=不定法> の用法)
と云っているもので、 |
当時の使徒パウロの考え、霊的思考、即ち、 | *上記ギリシャ語文面3-14節間での使用個所:
<キリストにおける真理霊感>の表れと見られる。) | 5節での<εις ~ εις>、6節で<εις>、8節<εις>
| 9(10)節<εις>、12節<εις το ειναι ~ εις>
=========================== | 14節<εις, εις>
|
[注] 8, 9~10節にかけてのパウロの真理表示の文言、神の | (すべて対格をとる。)
恵みと一つなる<神の奥義>が、まさに霊的な意味で |
神の言葉の宝殿から、天の永遠無限の極宝箱が開かれ |・<κατα>:属格の語と、対格の語を伴う二様の使い分け用法を
啓呈された心的様相のものである。 | 常とする。伴う語により意味が多様化する。
パウロから表明された<天の啓示思想>は、遠大にし | 〈属格〉①~から下へ、下って、向かって②反対して、逆らって
て壮大深えんなるものであろう。 | ③~に誓って、にかけて、をさして、
8~10 節での彼の言葉からだけでは、具体的に、その | 〈対格〉①の向かい側、の近くに、のあたりに②~ごとに、
内容の何なのかがさっぱり解らない、はっきり明確に | ~ずつ、毎~
示されてはいない。だが、この内容に関わる<答えの | ③にしたがって、基づいて、~式 or 流で、
表明>ともなるものが、同時期の書簡“コロサイ人へ | ④~関するかぎりでの、~関することがらで、
の手紙”、第1章15~21節で集約的に明示された | (<κατα>の前に冠詞<το>や<τα>が先行して、)
<御子なるキリスト>、その存在啓示表明であると、 | ⑤の前で、の面前で、~で(個人で、一人での場合)
言えよう。これが<神の言葉>の<奥義>だと。彼が |
言うにはそれは、<隠されていたもの>だと、世々に | *上記ギリシャ語文面3-14節間での使用個所:
亘って、いや世界が創定される以前から、、しかして | 5節での<κατα>、8節で<κατα>、9節<κατα>
旧約聖書における諸々の存在意義を代弁(解述)するも | 11節<κατα ~ κατα>
のとなった。<神の奥義>とする彼の<キリスト論> |
は、確かに前代未聞、画期的な<新しい世界観>をも | (これらはすべて〈対格〉をとる前置詞用法である。)
一体的に表示し、もたらすものとなっている。 |
その<新しい世界観>の<啓示場>は、ギリシャは、 | ///////////-----------------///////////
アテナイから、イオニヤ、アレキサンドリヤなど、 |
プラトン、アリストテレスから培われてきた学的知識、言葉論理の思惟風土であった。その背景には、アリストテレスの<天体論>
から プトレマイオス・クラウディウス の集大成的な<天文学>が横たわっていた。新たなる人類史の<第二の道>が用意されていた。
<第二の道>は、この思惟理性にすぐれた、ある意味で純粋さのある<知的風土>を通らなければならないように摂理されてい
たと言う他ない。
パウロの<キリスト論>は、人間理性を超えたものであったが、その信仰にあってさえ、ギリシャ的思惟理性の<考究対象>と、
されざるを得ない道を辿るに至るわけだ。学派神学、教会教理神学への多様な発展が、<第二の道>の所産結果として見られる。
因みに<第一の道>は、旧約のイスラエル選民・ユダヤ民族の辿り行ったところの前段階的な過程である。そして、言うなかれ、
今や、現代においては、<第三の道>の時代であり、<第三の道>の世界であると言っても過言ではない。
----------------------------------------------------------------------------------------------
*パウロは、数々の書簡の中で、その意味の通じる限度内において彼オリジナルの
新造語の<複合語>をもって語り記していると見られる。
<前置詞 + 動詞>により<複合動詞>が成立している。前置詞は、他に名詞や
形容詞等と結合しての複合語があるが、動詞との結合が最も主要的に多数を占め、
言語造成、増大の要となっている。その結合例は、前置詞類の全般に亘って見ら
れうる。
以下に、合成語を作るそれらの主要な前置詞の語を列記する。
ανα, αντι, απο, δια, εις , εκ<εξ> , εν, επι,
κατα, μετα, παρα, περι, προ, προς , συν,
υπερ, υπο, (合計:17 ほど)
*上記した3節から14節までのギリシャ語原文には、合成複合語として以下の用語が見られる。
=========================================
①・3節:
・επουρανιοις ← επι+ ουρανος
男性形複合名詞: 前置詞+名詞による複合語(上なる天、天上の意)
*発音上前置詞の末尾 <ι> の省音結合にての複合形。
(動詞が母音で始まるばあいには、前置詞の末尾母音は、
規則的に脱落するルールに、名詞の場合も準じている。)
*前置詞<επι>本来は基本的に ”上に ”だが、後続語の
格(5格のうち)性により、幅広い意味を有する。また、
合成語を成す時、その末尾<ι>が母音字の前に来るならば、
その<ι>が、脱落して語形をなす場合がある。特に複合動詞
の活用変化形において見られうる。
また、後続語により、発音上<επ’>又は<εφ’>ともなる。
②・4節:
・εξελεξατο ← εξ<εκ>+λεγομαι ←(εκ+λεγω)
複合動詞: 前置詞+動詞(選ぶ、選び出す)による複合語。
(不定過去中態:3sg) *動詞の不定過去形とする場合に、その接頭加音として、
<ε>を前置詞<εκ> の後に付けた時、動詞加音であるから、
<εκε>のような発音にならぬように、発音上 <κ> が
<ξ> に変化して <εξε->エクセーでの複合形。
*前置詞<εκ>による複合動詞が諸時制での活用変化の語形を
作る時、<εξε>以外にも、εξο,εξα などにもなる。
(母音の前では、<εξ> となる発音ルールによる)
前置詞本来の基本的意味は、中から外へ、”~の中から、
~の中から外に ”
・καταβολης ← καταβαλλω ←(κατα+βαλλω → βολη)
複合名詞: 複合動詞から派生した複合語(基礎を置く or 据える事)
(女性形単数・属格) *<βαλλω>は ”投げる、投げ捨てる、落とす、置く、”
奪格としての などの意。
καταβαλλωは、中態での語形で、”置く、据える”
の意をなす。
*前置詞<κατα>は、基本的に ”下へ、下って”の意。
*テキスト原文での、この語の前にある前置詞<προ> は、
属格(abl.格)系名詞および相当語をとる。<απο>も、
同様に、with 属格で句をなし、両者ともに、それ以外の
格の名詞及び相当語句等を伴わない。
・κατενωπιον ← κατα+ενωπιον
複合前置詞: 前置詞+形容詞の対格sg.n.(~の前に、~の面前に)
~に向けての対向、対面する意味合いを強めた表現。
*発音上 <α> 省略、省音結合にての複合形。
(母音字の前での脱落結合のルール)
*<ενωπιον> 単独でも、<前置詞>として、普通の
意味合いで使用される。
③・5節:
・προορισας ← προ+οριζω( οριζω が不定過去時制系列に変化)
複合動詞系: 前置詞+動詞(予め定める、前もって決めて選ぶ)
(不定過去分詞能動態 *動詞<οριζω>は”決める、限定する、定める、指定する”
sg主格形、主動詞 などの意。
との一致にて) この動詞の語幹は、<οριζ->ではなく、<οριδ->であるが、
不定過去(第一アオ.)の語幹は、過去時制接尾字<σα>が語幹末に
付く場合に、<δ>が脱落して付されるものとなり、<ορισα>と
いう語形をなす。
(τ,δ,θ の舌気音が<σ>の前にくると、それらが脱落するか、
<σ>に代るという発音上の規則にて。)
さらに不定過去の動詞語であるためには、過去時制系列としての
<接頭加音><ε>が付加された語形でなければならない。(例外を
除いた通常の規則にて。)
しかし、この場合、加音をつけて、<εορισα>の語形を見るが、
前置詞<προ>は強勢的部位を占め、その語形のままで、順当な結
合へ、加音<ε>は、両語間で<ο>母音に合音消吸収されたものとな
り、<προορισα>(proho`risa)という語形が出来あがる。
これは、不定過去(第1アオリスト)能動態の語だが、同様に<不定過
去分詞の能動態>も、同じ語幹<ορισα>から導かれ形成される
ものとなる。
(**古代BC4世紀代頃までは、<母音同士の合音規則>が良好
に表明されていたようで、加音<ε>と<ο>の合音字は、<ο>の長母
音<ω>となっていた。また、<ε-ο>合音は、ある時には、<ο-ο>
合音のように、<ου>(ウー)という長母音字となることもあったが。
従って、その頃の
第1アオリスト不定過去は、<προωρισα>(能動態基本形)で、
そのpass.受動態は、<προωρισθην>であったわけだ。)
当該の分詞形<προορισας>の末尾<ς>は、格尾字変化のそれ
で、能動態の単数、主格(及び呼格)を示す格接尾字である。
(<σα>に付く格尾字は、能動態、中態の分詞それぞれに限定され
たもので、受動態では<σα>の代わりに<θε←θη>となり、その
語幹の語形も含め、異なった格尾字、及び異なった形式の変化が、
男、女、中性の5格においてなされている。
[後述の⑧・11節の項、中段参照。])
*前置詞<προ>は基本的に”前に、前もって、あらかじめ”の意。
④・7節:
・απολυτρωσιν ← απο+λυτρωσις ←(動詞<λυτρω>から)
複合名詞: 前置詞+名詞(贖い、>=身代金など何か代償を払っての救済、解放、
(女性形単数・対格) 救助という一般的意味のものであるが、<απο>により、<何々からの
贖い>という、贖いそのものの内容の、何であるかを含意した語として
用いられているものである。)
*<απολυτρω>という動詞もあり、関連系類語をなす。
*<λυτρω>、<λυτρωσις>だけで、あがなうvt.、贖いnou.など、
同じ意味を表わす。
*前置詞<απο>は基本的に ”~から離れて、分離”の意で、
時間的、場所的にも ”~から”の意を表わす。
なぜ名詞、動詞に<απο>が付いたのか、これは明らか
に、<何々から>を特定、強調し、さらに<あがなう>と
いう事象的行為を時間的に限定する意図を込めた複合語と
思われる。(新約時代の新造語かも?)
*類比の語に<απολυω>=(解放する、釈放する、ゆるすなどの意)
が見られる。
・παραπτωματων ← παρα+πτωμα ←(動詞<πιπτω>から)
複合名詞: 前置詞+名詞(誤まって落ちる、踏み外して落ちる、正しい
(中性形複数・属格) 道から、或いは信仰からそれ落ちること→罪過、堕落、律法や
正しい心にそむく罪、背教、背信の罪)
*<παρα+πιπτω>という複合動詞もあり、その動詞
<πιπτω>から派生した名詞<πτωμα>を用いて、
複合語をなす。
*<παραπιπτω>という複合動詞の意味は、単に
<πιπτω>という動詞の意味<落ちる、落ちうせる>など
から、<何々の側に落ちる、側へ落ち去る>、あるいは、
不信仰へと<脱落、堕落する>という位置づけ、方向状態付け
のニュアンスを有する語となる。
*前置詞<παρα>は基本的に ”側に、側から、の側へ”の意で、
名詞との句により”を越えて、に反して、にそむいて”など
の意味を表わす。
*<πτωμα>という名詞は、”死体、死骸、倒れたもの、
落ちたもの”を意味する。
《注》:上記の2語は、聖書が証し示す<真理教義>において、密接な関わりを有し
た用語である。特に前者は、その最も中核、根本的な重要語の位置を占める
ものである。”罪から<あがなう>、罪過からの<あがない>”は、旧約、
新約の両聖書からの中心的思想メッセージ(福音)の基底、源起点をなす概
念である。
<罪、罪過の赦し>は<贖いをする事>でその成立上に至るを意味するもの
で、その<あがない>を信ずる、心に受け容れることで、初めて現実に有効
のものとなる。
⑤・8節:
・επερισσευσεν ← περι+σσευω ←(動詞<σευω>)
複合動詞: 前置詞+動詞(あふれ出る、満ち溢れる、/ 溢れるほど豊かに
(不定過去能動態:3sg) する、あり余るほど増し加える、豊富にする、増加させる、等)
σα,σας,σενと *動詞の現在形(1sg)は<περισσευω>であるが、前置詞
人称語尾変化する(単) と結合する<(σ)σευω>という動詞は、実際には存在しない
か、早くに死語消滅したと思われるかのどちらかだ。
したがって、この複合動詞は、形容詞(や副詞)の語、
<περισσος、(や περισσως ) >から、そのまま
動詞形に転化したとも考えられる。その由緒特性から、加音の
<ε>が前置詞の後に付くという通常ルールをとらないで、一般
既成語扱いとなり、語頭に<ε>が付いたかたちになっている。
*前置詞<περι>は基本的に”周囲に、まわりに”の意である
から、
これとの複合動詞は、字義的には ”まわりにあふれるほど
豊かになる、or 豊かにさせる ”といった意味合いとなる。
⑥・9節:
・προεθετο ← προ+τιθημι → (προτιθημι)
複合動詞: 前置詞+動詞(予め自ら立てる、すえる、置く、設定するなど)
(不定過去中態:3sg) *動詞の現在形(1sg)<τιθημι>は、”立てる、置く、
μην,ου,τοと すえる、設定する、設立する、確立する”等の意味がある。
人称語尾変化する(単) 動詞語幹は<θε->、過去時制加音ε+θε+το人称語尾で、
<εθετο>の不定過去中態:三人称単数ind.
*前置詞<προ>は基本的に”前に、前もって、あらかじめ”の意。
(合成の現在形<能動・単1人>は、そのまま <προτιθημι>
であるが、なぜ中態形をもって表わすかは、<神の存在真理観>に
よるものと見られる。)
⑦・10節:
・ανακεφαλαιωσασθαι ← ανα+κεφαλαιουμαι
複合動詞系: 前置詞+動詞(順次一つに再集括する、帰一更新する、一に
(不定過去中態の 帰属改新する、など)
不定法<=不定詞>) *動詞<κεφαλαιουμαι>は、”集約する、要約する、
9節の主動詞の時制 概括する、集統する、”などの意。
に準じて。 *前置詞<ανα>は、基本的には、”上へ”の意だが、複合語の
前綴りでは、再び、元に、新たに、”などの意がある。
*不定法は、構文的な文法上では、時制における時の区別に捉わ
れないで用いられているが、現在と不定過去の不定法での用法
上で、その文言意味合いの適否により、選択使用される。
⑧・11節:
・εκληρωθημεν ← εκ+ληρωθην(pre.εκκαλεωの変化形)
複合動詞: 前置詞+動詞(呼び出す、召しだす、←召す、招くの καλεω )
(不定過去受動態:1pl)*動詞<καλεω>は、母音で終わる語幹での基本的な規則に即した
μεν,τε,σανと 時制変化をしない。<καλεσω>未来形、<εκαλεσα>不定
人称語尾変化する(pl) 過去、<εκληθην>不定過去受動態のような単純な変化で形
成されていない。さらに<εκ>との合成となることにより、その語
の発音形成に即した複雑で<独自の不規則>変化をする。まさに規
則的形成をしない例外語である。
*前置詞<εκ>は、基本的には、“中から(内から)外へ”の意。
常に属格(奪格)の品詞を伴って使用される。
この場合の不定過去時制の形成様式は:εκ+ε+καλεωの
前置詞+加音(ε)+動詞語幹の語順となり、これに受動態の時制
接尾字θηと、単、複数の人称変化語尾が付く。この形式で、今回
は、予想しがたいほど不規則に変化して語形成がされている。
(<εκ>が接頭して <εξε>となる代わりに<κα>が脱落して、
<εκ>がそのままとどまり、次音節の<λε>が<λη>長母音になり、
発音上により、<ω>が<ρω>となって、、という具合に。)
*本来、元々の別の動詞があり、それが使用されているという用法解
釈もありうる。
その動詞は、<κληρω>、基本形は<κληροω>(くじで選ぶ、
割当てる、選ぶ、pass形では”選ばれる”)
この動詞の場合、不定過去時制系では加音<ε>が接頭したかたちで、
すんなりと規則的に諸語形成をなすと見られる。
しかし、<εκ>の接頭合成では、<εξε>とはならず、加音<ε>の
消略で、<κκ>と子音字が重なるが、この<κ>の一字も省略され、
当該の意味内容を意図した複合語が表わされるものとなる。
(加音<ε>略失での例外的な不定過去時制系の語形成となる。)
*しかし、先に挙げた動詞<εκκαλεω>との関連、結びつきが強
く、紀元前のLXX(70人訳ギリシャ語旧約聖書)では、すでに
旧約の民・イスラエルの集まり、集会、会衆、集団等に当てた語、
<εκκλησια>エクレー`シアという名詞語が、ユダヤ人の会堂、及び
それを中心とする集会等を意味する<συναγωγη>スナゴー`ゲーと
同様程度に使用されているのを見るかぎり、その動詞から派生して
くる諸時制、諸態等の変化形を吟味すべきであろう。
したがって、パウロ当世の新約時代に出来上がった<新合成語>、
パウロ自身が創意した<新語>であるかも、という推察も可能かと
思われる。
・προορισθεντες ← προ+οριζω(προοριζωの変化形)
複合動詞系: 前置詞+動詞(予め定める、前もって決めて選ぶ)
(不定過去分詞受動態 *動詞<οριζω>は、”決める、限定する、定める、指定する”
複数の男性・主格) などの意。直説法第一時制・現在・単数・一人称の語形である。
ντες,ντων, (前出③の5節アリ)
ισι(ν),νταςと この動詞の語幹は、<οριζ->ではなくて、<οριδ->であるが、
格語尾変化する(pl) 不定過去(第一アオ.)形では、それの時制接尾字<σα>が語幹末に付
く場合に、<δ>が脱落して付されるものとなる。(τ,δ,θの舌気
音が<σ>の前にくると、それらが脱落するか、<σ>に代るという発
音上の規則にて。)これにより、第二時制の加音接頭字が<ε>語頭
につくと、<ε+ο>母音の合音ルールにて長母音<ω>となって、
直説法第二時制・第一不定過去<ωρισα>の語形となる。
*前置詞<προ>は基本的に”前に、前もって、あらかじめ”の意。
(合成した現在形<能動・単1人>は、そのまま <προοριζω>
である。)
当該の不定過去分詞・受動態は、上の動詞語幹ルールに準じて、
<不定過去語幹=ορισ>に、受動態を示す接尾字θεを付ける
ことにより、<不定過去分詞の語幹=ορισθε>となる。
この語形に格語尾変化(男、女、中性での単、複数のそれぞれ主要な
5格変化)が、名詞(形容詞)に見られる格語尾変化(第三、第一
変化に従うルール)に準じたかたちで付加され、形成されるものと
なる。ちなみにこの単語動詞の
単数男性、→女性、→中性の主格のそれぞれは、
<ορισθεις,→ ορισθεισα,→ ορισθεν>
複数のそれは、
<ορισθεντες, ορισθεισαι, ορισθεντα>
他の格も、それぞれの格語尾により表わされる。
・προθεσιν ← προθεσις の対格 ( προ+θελησις から短縮派生)
複合名詞: 前置詞+名詞(決意、決心、志、計画、目的など)
(女性形単数・対格) *名詞<θελησις>は、”意志、意図(すること)御旨”などの意
第3変化の名詞 <θελησις>(主格)から、対格は<θελησιν>となる。
(単= -σις、→ -σεως、→ -σει、→ -σιν、→ -σι、
複= -σεις、 -σεων、 -σεσι(ν)、→ -σεις、)
この名詞は、動詞<θελω>の変化形(inf.)<θελειν>から名詞
化導入されている。その時 <θελε,,>の<λε,,>が <ε> から→
<η> へと長母音化することにより。
(動詞の語幹は、<θελε>、しかし、BC250年代以前での古
代アッティカ語では、現在形が、<εθελεω>であった関係から、
不定過去(第1アオ'.)は、<ηθελησα>、未完了過去:<ηθελον>
未来:<θελησω>、 subj.の不定過去pass.は、<θελεθω>、
indi.完了act.は、<τεθεληκα> 等々の基本語形がある。)
⑨・12節:
・προηλπικοτας ← προ+ ελπιζω(動詞語幹は、<ελπιδ->)
複合動詞系: 前置詞+動詞(以前から+望みを持つ、前々から+望みをおく、
(完了分詞・能動態 早くから+望む、かねてより+希望をいだく、等々)
複数の男性・対格) *動詞<ελπιζω> の動詞語幹<ελπιδ->は、その末尾が<ζ>の
代わりの<δ>で表示されている。他の諸時制形で、<σ>,<σα>がその
語幹に付いて語形変化する場合、その<δ>は無音死字で、脱落する。
(語幹末尾が<τ> や <θ>の場合も脱落する。)
同様に完了時制での<κ>,<κα>が付く場合も脱落する。
*前置詞<προ>は基本的に”前に、前もって、あらかじめ”の意。
(合成した現在形<能動・単1人>は、そのまま<προελπιζω>
である。不定過去や未完了過去では、前置詞<προ>の語尾母音<ο>
の脱落はなく、動詞の語頭母音が長音化<ε+(ε)→η>することで、
加音ルールに従うものとしている。
不定過去:προηλπισα, 未完了過去:προηλπιον。
他の前置詞<ανα, απο,(εκ→εξ),επι, παρα>等は、
脱落するケースが多いと見られる。要するに古代の音声発音上の音律
抑揚=アクセントでの調合いの具合で、脱落の可否が生じている。
*完了系列の基本型は、まさにこの<ηλπι-> のあとに完了の<時制接尾字>
<-κα> を付加した <ηλπικα='`エールピカ>である。
(ただし、本来の<動詞語幹>は<ελπιδ->である。) 当然、
これは、完了能動態act.単数第1人称と同じ語形であり、これにより
他の単・複数の人称語尾が付され、語形表示されるものとなる。
この場合、人称語尾は発音上、第一時制の人称語尾は極めてとり難く、
第二時制としての人称語尾をとり、まさに第一不定過去 <-σα> に
付くものと同じ語尾のものとなる。(<-σα+語尾>発音が、<-κα+語尾>
発音にそっくり変ったと見てよい。)
<完了中態、および受動態>は、この能動態語形とは異なり、語末は、
<κα>をとらない語幹の形をとる。
つまり、<ηλπι>の語形に直結するかたちで(連尾母音ο,ε仲立ち
介入なしで)それぞれの<人称語尾>が付けられ、単、複の1人称~
3人称の語形が表わされる。
<完了中態、および受動態>は、この能動態語形とは異なり、語末は、
<κα>をとらない語幹の形をとる。
つまり、<ηλπι>の語形に直結するかたちで(連尾母音ο,ε仲立ち
介入なしで)それぞれの<人称語尾>が付けられ、単、複の1人称~
3人称の語形が表わされる。
・語頭が長音で:
単・1人称<ηλπιμαι>, 複・1人称<ηλπιμεθα>
(2 -σαι, 3 -ται) (2 -σθε, 3 -νται)
・語頭が重綴りでの語の例:(λυω→ λελυκα 能動・単1)
単・1人称 <λελυμαι>, 複・1人称 <λελυμεθα>
(2 -σαι, 3 -ται) (2 -σθε, 3 -νται)
【完了時制に関する文法的諸事項】への参考閲覧は、ここをクリックにて
================
さらに詳しく《完了時制》に関して、文法的に理解を進めると、
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
*<完了時制の基本型:規則動詞類>での語形成立の基本型は、動詞語
幹により、
<○ε○~κα>形式という、特有な重綴り形式でもって形成され、
表わされている。ただし、中態、受動態は、<κα>の接尾字をとらな
いで、代わりに別の人称接尾字での活用変化をなす。
動詞語幹は子音で始まるのものと、母音で始まるものとのいずれかに
なるが、
能動態に関しては、以下の条件での様式となる。
・子音語頭で・・<○ε○~κα>重綴り形式(規則動詞の基本型)
・母音語頭で・・<長音化~κα>母音長音化で重綴りに準ず形式)
ここでの今回の語は、上記した如く、<ελπιδ->が語幹であるが、
この基本型形式にそのまますんなり当てはまらない語のようで、基本
型に準拠したかたちで、その語形成がなされている。(多くの他の語も
同様なケースが見られる)
これによる完了系の語形は、<δ>の脱落した語幹の末尾に<κα>を
加えることで、簡単に<ελπικα>となるが、これで語形成立した
わけではない。
英語時制では表現できないギリシャ語の完了時制だが、
(過去的要素を起点含意して、現在時点的完了の結果状態を表わす働き
の動詞形という意味で、概念的には表面化しない<隠れた起点的過去
上の行為や心為など>を示すもの) この場合は、<未完了過去>や
<不定過去>の語形での過去系列時制のしるしともなっている、語頭
に付く加音:<ε>をも共有することで、完了語形のしるしとしている
ので、かの用語の <ελπικα> は、さらにその上に加音<ε>との
係わりで、語形的にどうなるかということになるが、
・母音語頭では<母音長音化~+κα>という形式:が適用される。
重綴り出来ない代わりに、母音の長音化をもって、それ(重綴り)と見
なす形式をとるわけである。
先に<ελπικα=エルピカ>とした語形の語頭が<母音>であるゆえ、
語頭の<ε>が、自然に長母音<η=エー>となることで、その完了系語幹、
<ηλπικα='エールピカ>が出来あがるものとなる。
完了系列の基本型は、まさにこの <ηλπικα='`エールピカ>である。
(ただし、本来の<動詞語幹>は<ελπιδ->である。)当然これは
完了能動態act.単数第1人称の語形でもある。
▼<完了分詞系の語幹>は、能動態では、<κα>の代わりに<κ>を付け
ることで、便宜上その語幹<ηλπικ->が設定される、とする見方を
とることが出来る。その語幹に格、性、数(単複)による活用変化の
語尾が付加される。
男・単:主格<ηλπικως>属<-οτος> 与<-οτι>対<-οτα>
複: < -οτες> <-οτων> <-οσι(ν)> <-οτας>
⑨の12節は:<προ + ηλπικοτας>=男性・複・対格
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
女・単: <ηλπικυια> <-υιας> <-υια> <-υιαν>
中・〃: <ηλπικος> <-οτος> <-οτι> <-ος>
*中、受動態の分詞は、上記の完了中、受動態の語幹<ηλπι>に直接
-μενος(男性), -μενη(女), -μενον(中性)の主格を始め
とする4格、単・複系列の語尾変化接尾字が付される。
(規則形容詞語類のある変化語尾の如くに付される)
⑩・14節:(前記:<④・7節>参照=用語活用形として同一のもの)
・απολυτρωσιν ← απο+λυτρωσις ←(動詞<λυτρω>から)
複合名詞: 前置詞+名詞(贖い、>=身代金など何か代償を払っての救済、解放、
(女性形単数・対格) 救助という一般的意味のものであるが、<απο>により、<何々からの
贖い>という、贖いそのものの内容の、何であるかを含意した語として
用いられているものである。)
*<απολυτρω>という動詞もあり、関連系類語をなす。
*<λυτρω>、<λυτρωσις>だけで、あがなうvt.、贖いnou.など、
同じ意味を表わす。
*前置詞<απο>は基本的に “~から離れて、分離”の意で、
時間的、場所的にも “~から”の意を表わす。
・περιποιησεως ← περι+ποιησις(動詞:ποιεωの現在分詞から)
複合名詞: 前置詞+名詞(自分自身の会得に関わる=自分自身に得させられたもの、
(女性形単数・属格) 得受にまつわる、又は関わる、或いは自分に生じた、なされた、行われ
た事に関わる、での、形容詞的に活用した名詞の属性的修飾語である。)
*女性名詞<ποιησις>は、動詞のind.現在の第一基本型<ποιεω>
の現在分詞・中、受動態(ποιουμαι)の位置づけからの派生語と
はなるが、その活用変化は、規則動詞の現在語幹に基づいた規則的語尾
変化を成すものではない。
また、名詞の格語尾活用の類型では、第三変化の部類に属するが、語幹
に付す格語尾変化の際、属格などの一部で<母音合音>をなすゆえに、
正規の規則語尾変化を逸して、変則したものとなる。
現在語幹<ποριεο>→<ποριη+σι+ς>で、<ρ>が脱落して
= ποιησις
属格では、<ποριησι>の語尾ιがεに変り、格語尾<ος>が付くこ
とで、<--ησεος>のεοが長音化して<ποι+ησεως>となる。
*前置詞<περι>は基本的には“周囲に”であり、
属格の品詞を伴っては、“について、~のことで、 に関して”、また他に
“~のために(の)、 ~の利益のために(の)”の意。
対格品詞を伴っては、“のまわりに(の)、のまわりを、~をとりまいて、”
さらに属格と同様に“関して、について、において、”などの意味を持つ。
-----------------------------------------------------------------------------------
【現ページトップへ】